外資系を中心に戦略コンサルティングファームは一般的に定着してきました。新卒や中途での就職活動でも注目職業になりつつあり、一昔前とは違って優秀な人材が集まる職業にもなってきています。しかし、いざ戦略コンサルティングファームへ依頼するとなっても、初めての方もまだまだ多いのではないでしょうか。
本記事では戦略コンサルティングファームの業界全体の特徴や、その費用相場やプロジェクト期間などの比較をしつつ、選定方法についても解説します。
1.戦略コンサルティング業界の全体像
戦略コンサルティングファームと言っても、その成り立ちなどの違いから特徴的な違いがあります。大きく業界を分けると「総合系ファームの戦略部門」「外資系戦略コンサルティングファーム」「日系戦略コンサルティングファーム」に分かれます。日系コンサルティングファームには意外な読者も多いかも知れません。確かに、多くの日系コンサルティングファームは、どちらかと言うと教育訓練を成り立ちとしているコンサルティングファームが多いですが、最近では外資系戦略コンサルティングファーム出身の方が独立している日系戦略コンサルティングファームも増えてきています。
本記事では、それらの業界の棲み分けや特徴などを解説します。
1.1.総合系ファームの戦略部門
まず「戦略コンサルティング」と言われると直ぐに名前が出てくるのには、総合系ファームと呼ばれる戦略部門があります。これらの多くは、かつて「4大監査法人」と呼ばれた会計系のコンサルティングファームからの戦略部門が多く名を連ねています。
総合系ファームの戦略部門の特徴は、まず「情報量の多さ」があります。会計ファーム時代から積み上げたグローバルネットワークから収集される情報量もありますし、クライアントに対しても、戦略領域だけではなく、IT部門や業務オペレーション部門、会計部門など幅広い領域のサポートをしているケースが多く、クライアント内の情報量の多さにも特徴があります。
また、コンサルタントのロールにも特徴があります。戦略部門とは言え、現場まで入り込んで新鮮な情報を集めてきて、クライアントの文脈に合わせて綺麗なスライドにまとめることを期待されるケースが往々にしてあります。この辺りは外資系戦略コンサルティングファームとの違いとも言えます。
1.2.外資系戦略コンサルティングファーム
続いて「戦略コンサルティングファーム」と聞いて頭に思いつくのは「外資系戦略コンサルティングファーム」でしょう。
古くから「戦略領域に特化したコンサルティングファーム」として名が通っている会社が多く、その歴史の長さからグローバルネットワークも豊富で情報量も総合系ファームとまではいかないまでもクライアントを驚かせる情報量を持っています。
また、彼らの特徴は「フレームワーク」にあります。各社で独自の戦略フレームワークを持っており、それらのフレームワークに整理して適用していくことで、複雑に入り組んでいる情報や思考をスッキリ整理し戦略の重点ポイントをロジカルに導き出すことを得意としています。
というのも、外資系戦略コンサルティングファームは、ほとんどのケースで役員以上をカウンターとしているケースが多く、大企業のトップクラスとの商談も普通にあります。従って膨大な情報量を長々と説明している暇はなく、複雑なビジネスをシンプルに分かりやすくポイントだけプレゼンして仕事を受けるケースが多いからです。
また、戦略領域に特化しているのも彼らの特徴の1つです。よって実行するかしないかはクライアント次第、というのを相当に割り切ってプロジェクトに入っています。
1.3.日系戦略コンサルティングファーム
日系コンサルティングファームの多くは人材育成領域のコンサルティングファームが多いですが、その中でも、外資系戦略コンサルティングファーム出身者が独立して設立したり、IT領域やマーケティング領域から派生して戦略領域に食い込んできた日系戦略コンサルティングファームも増えてきています。
このタイプの戦略コンサルティングファームの特徴は、とにかく実践的で余計なレポートを作らずに、真にROIに効果的な戦略提示をロジカルに行うことです。もともとがITやマーケティングの実務支援から派生している戦略コンサルティングファームなので、机上の空論は気にせずに実践的であることを重視しています。
また、戦略コンサルティングを実施する上で、外資系戦略コンサルティングファームが提唱しているフレームワークやアメリカを中心とする海外の経営学者が論文で発表しているフレームワークなどを応用することも得意としています。外資系戦略コンサルティングファームが提唱するフレームワークには、商標のあるフレームワークもありますが、多くは書籍等で広く社会に普及している商標権のないフレームワークも多くあるので権利侵害の心配はありません。また、自分たちの事業成長において経験している戦略を打ち出すことが多く、その意味でも実践的と言えるでしょう。
更に、日系戦略コンサルティングファームの特徴は、その費用の安さであったり、費用対高価の高い点にあります。総合ファームや外資系戦略ファームと違って、リサーチやレポートにリソースを必要以上に割きません。(全くしない訳ではないので誤解はしないようご注意ください)。リサーチは戦略理論を構築したり仮説検証するのに必要な程度に止め、競合調査はしっかりした上で戦略を練ります。なので、格安で実践的な戦略を提示してくれるのも日系戦略コンサルティングファームの特徴の1つです。
2.代表的な戦略コンサルティングファームのご紹介
続いて、本章では代表的な戦略コンサルティングファームをご紹介します。日本国内でも外資系含めて戦略コンサルティングファームは20社以上はありますので、その全てを紹介することはできませんが、良く名前を聞く戦略コンサルティングファーム5社をご紹介します。
2.1.マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン
シカゴ大学で会計士の修士号を取得したジェームズ・O・マッキンゼーが1926年に会計事務所を設立し会計士として活動を始めたのが設立当初となります。その後、1933年に法律事務所で活躍していたマービン・バウワーが入社し現在のマッキンゼーの基礎を築きました。
その後、1950年〜1969年の間に売上高を10倍にする急成長を遂げ、同時期に世界展開も行います。1971年に日本支社を設立し日本への参入を果たしました。当時の日本は戦略ブームと呼ばれる時期で、日本でも着実に成長を遂げて今の地位を得ています。
日本人のマッキンゼー出身者で有名な人物と言えば大前研一氏ですね。他にもビジネス界に大きな影響を及ぼした経営者では、DeNAの南波智子氏やエムスリーの谷村格氏などはマッキンゼー出身者として有名です。
世界的にも高い評価を受けており、高い専門性を有し、日本でのビジネス経験の長さから日本特有の文化や環境に適応させながら、国内上位30社のうち実に7割程度の企業にその知見を提供している世界最高峰のコンサルティングファームと言えるでしょう。その分、フィーは相当高いです。
2.2.株式会社ボストン・コンサルティング・グループ
こちらも全世界45ヶ所で事業展開している世界トップクラスの戦略コンサルティングファームです。東京オフィスは世界第2位に古い1966年に開設され、2021年からは内田有希昌氏と秋池玲子氏が共同で日本代表を務めており、ある意味ではローカライズも進んでいるとも言えます。
戦略コンサルティングもその規模や情報量から得意としていますが、「組織マネジメント・コンサルティング」を得意としていることも特徴で、安定的にクライアントからの依頼があることから常に新しいことにチャレンジができることが成長力の源泉になっています。現在2つのTechnology/Digitalの組織が存在し企業のDXを支援可能な体制を構築しています。IT/Digitalに関するテーマ別のケイパビリティを提供するDigitalBCGは、データを活用したユースケース特定からデータ分析に関するテーマをEnd-to-endで支援します。
2.3.アクセンチュア株式会社
アクセンチュアの歴史も古く、アクセンチュアの前身であるアンダーセン・コンサルティングは1950年代にアメリカ最大の監査法人だったアーサー・アンダーセンのビジネス&テクノロジーコンサルティング部門が1989年に分社化した歴史があります。その後、様々な経緯があり2001年に現在の社名に変更されています。
日本では監査法人時代から遡ると1962年に日本事務所が開設され、日本でのビジネスの歴史も長いコンサルティングファームです。
ただし、総合系ファームの戦略部門ということもあり、戦略コンサルティングよりは、早い時期からテクノロジー、特にITに力をいれており、現在ではアビームコンサルティングに次ぐ日本第2位のSAP認定コンサルタント制度の有資格者数となっております。日本で「CRM」という言葉を初めて書籍で紹介したのもアクセンチュアの前身となるアンダーセン・コンサルティングです。
従って戦略コンサルティングファームとして選定するというよりも、戦略だけでなく実行技術を含めた戦略の実現性を打ち出しているのが特徴で、現在に至っては「ITに強い経営コンサルファーム」という側面の方が強いかも知れません。また、ITに強い一方で、開発するシステム規模も膨大になる傾向があるので、全体的にコストが高くなる傾向にはあります。
2.4.株式会社ベイカレント・コンサルティング
日系戦略コンサルティングファームで有名なのは上場企業のベイカレントです。ベイカレントは1998年に経営・業務とITに関するコンサルティング、システムインテグレーションやアウトソーシングといった領域で有限会社ピーシーワークスとして設立されました。
その後、株式会社化をして社名を変更したり、ホールディングス会社を設立してその参加に入ったりと紆余曲折し2916年9月に旧東証マザーズに上場し、2018年に旧東証一部へ市場変更しています。
その間にIT領域から戦略領域にコンサルティング領域を広げていき、日系戦略コンサルティングファームとして日本を代表する戦略コンサルティングファームに成長をしていきました。
同社が発表している2023年2月期決算説明資料から抜粋すると現在のベイカレントの姿が良く分かります。
・売上高は約760億円で前期比32%の増加
・2022年2月期~2026年2月期の5ヵ年中期経営計画では「国内最大級の総合コンサルティングファーム」を目指している
・今後の取り組みは「高付加価値化の更なる推進」「優秀な人材の採用・育成」「DXコンサルティングの進化」の3つを掲げている
といった流れから、今後は戦略コンサルティングファームというよりは、ITの強みを活かして、DXであったり、カーボンニュートラルのような重要経営課題に応えていく方向を打ち出しています。
2.5.株式会社H&K
日系戦略コンサルティングファームを打ち出したのは最近ですが、いくつか事例が出てきました。H&Kは2020年9月に設立したスタートアップ企業(執筆当初)で、最初はHubSpot(ハブスポット)というグローバルシェアNo1のマーケティングプラットフォームの国内パートナーとして事業を開始しました。急成長を遂げ、創業から1年10ヶ月という短期間に国内トップクラスのDIAMONDパートナーにまで成長し当時は国内2社しか持ってないパートナーランクへ急成長しました。
その後、社内でのDX化に成功し、そのノウハウをクライアントに提供するようになり、HubSpot×バックエンドSaaSのAPI連携などサービス領域を広げ、現在はAI分析から戦略領域にまでサービスを広げていく動きをとっています。
H&Kの戦略コンサルティングの特徴は、スピードとコストです。単純比較はできませんが、大手の戦略コンサルティングファームのプロジェクト期間比較では約4分の1、費用では一桁安い費用で実施できるのが特徴です。
3.戦略コンサルティングプロジェクトの費用相場やプロジェクト期間
代表的な戦略コンサルティングファームの成り立ちや歴史、現在の特徴などをまとめましたが、本章では、第1章でご紹介した3つの分類ごとにそれぞれの戦略コンサルティングプロジェクトの期間や費用相場についてご紹介します。
分類 |
特徴 |
PJ期間 |
費用相場 |
総合系ファーム |
レポートが多め リサーチとレポートに重点を置いている 情報量が多い |
8ヶ月~18ヶ月 |
数千万~数億 |
外資系ファーム |
フレームワークやロジカルシンキングを重視している 新しいテクノロジーに注力している |
6ヶ月~12ヶ月 |
数千万円~数億 |
日系ファーム |
ITに強い |
6ヶ月~24ヶ月 |
数千万円 |
※H&K |
マーケティングに 強い 余計なリサーチは しない |
3ヶ月~6ヶ月 |
数百万円 ~1,500万円 |
あくまでプロジェクトテーマや規模によるので、上記はあくまで目安にしていただきたいですが、傾向的には総合系ファームや外資系ファームはリサーチを重視し厚いレポートを提出する文化が根強くついています。その為、「この情報量までは必要ないのでもっと安くできなかったのかな」や「結局、何を戦略とするのが良いんだろう」といった印象を受けるケースも少なくありません。その中でも外資系ファームはITにシフトしてきた歴史が長いので、戦略から具体的な開発プロジェクトに落とし込み、その開発費用で膨大な投資が掛かるケースも見受けられます。
一方で、日系ファームはもともとが戦略コンサルティングではないこともあり、ITやマーケティングの実務や理論から戦略を構築していく傾向があり、実践的とも言えます。ただし、総合系ファームや外資系ファームのように膨大なリサーチや情報量から分厚いレポートを提供することがないので、形式的なアウトプットを求める場合は向かないでしょう。
特にH&KではWebサイトリニューアル案件からマーケティング戦略構築と具体的な施策の提案につなげて、最終的にマーケティング部長が役員会で翌期のマーケティング予算を獲得するためのプレゼンテーション資料に落とし込んでいる事例などもあり、レポートというより社内プレゼン用の資料にとどめて2ヶ月で数百万円の戦略コンサルティングという実践的でリーズナブルなサポートをした事例などもあります。
4.戦略コンサルティングファームの選定方法
戦略コンサルティングファームの特徴などを分類別にまとめてきましたが、戦略コンサルティングファームを選定するにあたっての留意点や選定方法のポイントなどを本章では解説します。
4.1.パートナーだけで選定すると危険
戦略コンサルティングファームは、どの会社もプロジェクト単位でメンバーを構成します。呼び名は会社で様々ですが、主な役割として一般的には「リサーチャー」「コンサルタント」「マネージングコンサルタント」「パートナー」という役割で構成されます。
実務的に現場で動くのは「リサーチャー」と「コンサルタント」ですが、発注前のプレゼンでクライアントの前面に出るのは「パートナー」です。「パートナー」はグローバルレベル
で多数の実績と情報量を持ちプレゼンテーションスキルも長けているので、パートナーのプレゼンテーションは非常にレベルの高いものがあります。従って、とても魅力的なプレゼンテーションを受けますが、実務的に現場でプロジェクトを遂行するのは「リサーチャー」と「コンサルタント」でプロジェクトマネジメントをするのも「マネージングコンサルタント」がプロジェクト管理をします。よって、プロジェクトの成否を決めるのは意外と「パートナー」ではないケースがほとんどです。
4.2.実績だけで選定すると危険
戦略コンサルティングファームの大手は、国内でも世界的に有名なコンサルティングファームが多く、その歴史と実績は相当なものがあります。また、グローバルなネットワークを武器に実績をアピールする戦略コンサルティングファームも多いです。
確かに実績は大事ですが、プロジェクトの成否に実績は意外と関連性がありません。社内稟議を通し易くするのに実績が重視されるのは日本企業の特徴の1つですが、プロジェクトの成否はあくまでプロジェクトを構成するメンバーの力量です。そういった意味で、プロジェクトメンバーが今までどんなプロジェクトでどんな成果を上げてきたのか、という観点での実績は大事でしょう。特に大手ファームだと、会社の実力とプロジェクトメンバーの実力は別物だと割り切って選定することをお勧めします。
4.3.会社規模だけで選定すると危険
実績同様に会社規模を選定条件にするのも危険です。戦略コンサルティングファームは確かに世界的に大手のコンサルティングファームが多いので、会社規模への安心感はあるでしょう。グローバル戦略を立案するプロジェクトであれば、グローバルネットワークが自分たちのビジネスドメインと合致しているかは重要な選定ポイントの1つになるかと思います。
しかし、例えば国内ビジネスの戦略立案をするのにグローバルネットワークは必要でしょうか?確かに国内ビジネスにおいても競争相手には外資系が多く、外資系競合との競争が重要なポイントになる国内ビジネスであればグローバルネットワークは重要なポイントになるかも知れませんが、そうでなければグローバルネットワークが豊富であることが重要な選定ポイントになるでしょうか?
大規模プロジェクトになればリソースが豊富な大手戦略コンサルティングファームの方が安心ではありますが、あくまで目的との合致性から会社規模の優先度を決めることをお勧めします。
4.4.戦略コンサルティングファームの選定方法のおススメ
それでは、戦略コンサルティングファームの選定方法として重視したいポイントについてご紹介します。結論から言うと以下がポイントになると考えています。
・目的との合致性
・構成するプロジェクトメンバーの実力、実績
・目的に対して余計なプロジェクト対応事項が多くないか
・実効性の高いシンプルな戦略提示をしてくれるのか
・ROIがロジカルで納得性の高いものになっているか
戦略策定において昔から言われていることが「絵に描いた餅で終わってしまう」ということです。どんなに膨大な情報に裏打ちされた戦略であっても、綺麗に描かれた戦略であっても、実行されて成果に結びつかなければ意味がありません。
戦略コンサルティングファームを選定する際には、「実効性の高い戦略」と「実効性を高めるための具体的な施策が打てるか」という観点で選定されることをお勧めします。
5.まとめ
いかがだったでしょうか。戦略コンサルティングの領域は、数千万から数億まで掛けてグローバル戦略を立案するようなプロジェクトから、事業部単位での事業戦略をスピーディーに低コストで立案し実効性を重視したい、というニーズまで、様々なニーズがあると考えています。
H&Kでは、あまり「戦略コンサルティングファーム」に関する記事は出してきませんでしたが、最近そういったニーズが強くなってきて、いくつか実績も出てきているので、これを機に「もっと上流の戦略コンサルティングから、実行面でのサポートも一気通貫でお願いしたい」といったニーズがあれば、是非お問い合わせください。
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