本記事では、顧客維持の3つのステージのうち最後に当たる「長期ステージ」と、一度プロダクトから離れたユーザーを再獲得する「レザレクション」について解説していきます。
顧客維持では、今ある顧客を安定的に獲得させることを考えますが、実は離脱ユーザーを復活させること(レザレクション)で顧客を再獲得することも戦略の1つなのです。
このブログのライティング者

安藤 弘樹(Koki Ando)
株式会社H&K 代表取締役
株式会社H&K 代表取締役CEO
20代前半から事業を展開し、バイアウト。その後、30年続くイベント会社で最年少でセールス・マーケの責任者。広告代理店で取締役CMOを経験。H&Kを創業。
@KOK1ANDO Youtube
1. 顧客維持の長期ステージ
1.1 長期ステージにおける2つのアプローチ
長期ステージでは、満足度と活性度を長期的に保ち続けていくことになります。ここでは以下の2方面からのアプローチをとるのが良いでしょう。
●既存の機能や通知、継続利用からの報酬の最適化
●長期にわたる着実な新機能の導入
これらのバランスをとるのが極めて重要ですが、新機能を短期間に増やしすぎて「フィーチャークリープ」を引き起こすプロダクトは少なくありません。これは、機能が必要以上の増えて過度に複雑化した結果、かえってプロダクトが使いづらくなってしまう状態のことです。
こうなるとコアバリューが見えなくなってしまいます。
その根拠に、MSI(マーケティング・サイエンス・インスティテュート)の2005年の研究では、一つにプロダクトにあまりに多くの機能を詰め込んで、長期的維持を損ねている企業が少なくないと指摘しています。
「企業は搭載可能なすべての機能を詰め込んだプログラムを提供するより、機能の数を絞って専門化したプロダクトを多数取り揃えることを検討すべきだ。」と結論づけています。
これに着目したのが、ITコラムニストのデビット・ポーグです。2006年のTEDトークで彼は、マイクロソフトの文書ソフト「ワード」のツールバーを全てオンにした画面を示しました。複雑化され、使いづらくなっているのが明らかに分かります。
(出典:Hacking Growth グロースハック完全読本 / 日経BP)
ちなみにオンラインプロダクトであれば、物理的なプロダクトよりもずっと簡単に新機能を搭載できるため、公開のタイミングを計るのがなおさら難しくなります。
ユーザーはプロダクトの見た目や使い方に愛着を感じるようになるので、企業側でいきなり変更すると反発を招きかねないのです。
1.2 DXチームの役割
既に計画されている新機能の魅力を評価する時は、DXチームはユーザーにプロトタイプやベータ版を提供実験する重要な役割を担います。
一般公開する前に、新機能はごく少数のユーザーでテストするのが望ましいでしょう。完成度を高めるためのデータをたくさん得ることができます。
ほとんどの企業ではプロダクト部門が新機能開発の担当となると思いますが、DXチームが継続的に実施しているアンケート調査とデータ分析からも、試すに値するアイディアが必ず出てきます。市場調査や戦略計画からは見つからないような、プロダクト最適化の新たなチャンスもデータから発見できる可能性があります。
あるアプリチームが重要な新機能を導入するとします。この新機能はプロダクト部門がベータ版を作成しており、ユーザーのアプリ利用情報とアプリ内機能を関連させてレコメンドする新機能が備わっています。
この際、DXチームはプロダクト部門やマーケティング部門と話し合って新機能を少数のユーザーにだけ提供すること、そのユーザーの間で新機能の利用率を高める実験の戦略を決めることになります。
1.3 価値を長期的に伝える
新機能を追加して満足度の高いヘビーユーザーからプロダクト使い方を分析する長期ステージでは、プロダクトから得られる価値を伝え続けることが重要です。ユーザーに発見の連続を体験させるのが理想で、そのためには学習曲線を描くように誘導する必要があります。
この教育プロセスは「オンゴーイング・オンボーディング」とよばれ、語学など技術スキルを習得するときのように、ユーザーは単純で小さな目標から始めて、時間をかけて徐々に習熟していきます。
プロダクトの価値を最大限伝える過程でもこのプロセスを利用して、全ての新機能を丁寧に教えてマスターさせましょう。
ユーザーがプロダクトの使い方を習熟していく過程では、まだ使ったことのない機能や新たな機能は段階的に提示されていくのが良いです。これにより、前の機能をマスターしてから次の機能を学び始めることができるようにするのです。
このオンゴーイング・オンボーディングについてももちろん、実験が必要になります。新機能の宣伝の場所や段階などについて機能が効果的に伝わるような方法を考えましょう。
2.レザレクションとは
レザレクションとは、活性度がゼロになってしまった“ゾンビ顧客”を蘇らせることです。
ここでもDXチームによる実験が役に立ってきます。
2.1 DXチームによる原因調査
最初に行うべきことは、顧客が離れてしまった理由を突き止めることです。そのためにはシンプルに解約したユーザーや長期間使っていない登録者に聞き取り調査をするのが良いです。
エバーノートのチームでは、顧客維持率が伸び悩んでいた時期にゾンビ顧客からフィードバックを得て原因を特定しました。エバーノートを使わなくなるのは、パソコンやスマートフォンを買い替えたときで、すぐにアプリをインストールしないことが大きな要因でした。
このようなフィードバックをもとに実験を検討するときには、当然ながらその理由が対処可能なものかどうかを見極めることが重要です。
スーパーのアプリチームを例に、2つの状況を考えてみます。
1.顧客離れの理由が、携帯の買い替えによってアプリをインストールしないままの登録者が比較的多かったとします。この場合、休眠状態を察知して再インストールを促すメールやリターゲティング広告で対処することが可能です。
2.顧客が離れの理由が、このスーパーではお気に入りのブランドを取り扱っていないとします。この場合、DXチームではどうしようもないため、そのブランドに需要があることを担当部門に伝えることが最善策となります。
2.2 レザレクションの施策と注意点
ほとんどのレザレクションの施策は、メールと広告で行うことになります。
まず、商品購入やアクティビティがない状態が一定期間続いたら、そのユーザーを「レザレクションフロー」にいれます。メールや広告を届けて、使い始めるきっかけになったアハモーメントやコアバリューを思い出させるのです。
この際CRMを導入して活用すれば、顧客情報をデータベースにして、顧客一人ひとりに合わせたタイミングとコンテンツをメールで自動配信することが可能となります。
離脱・休眠ユーザーに特化したものを届けることで、多くの人数が復帰することもあります。既にアハモーメントを体験しているユーザーなので、新規ユーザーの獲得よりコストと手間がかからない場合か多いです。
ただ、やりすぎは禁物です。メッセージの頻度や期間、言葉の使い方は実験によって適切なものを見つけていきましょう。
また、どこかのタイミングで見切りをつけることも必要になります。見切りをつけたユーザーがDXチームの努力とは関係なしに、ふと戻ってくるような人もいるのです。
3. 最後に
ゾンビ化した顧客を取り返すことは優先順位が低いと感じるかもしれませんが、彼らもまた収益を上げる糸口のひとつです。そのため、レザレクションは取り組む価値があると覚えておくと良いでしょう。
また、長期ステージの理解のためには初期・中期ステージの理解も大切ですので、是非そちらの記事もご覧ください。