皆さんは、人から褒められたり尊敬されたりすると喜びを感じますか?
これらを金銭的報酬と対比して社会的報酬と呼びます。本記事ではそんな社会的報酬に焦点を当てて、プロダクトの利用の習慣化促進・顧客維持に向けた戦略を解説していきます。
このブログのライティング者

安藤 弘樹(Koki Ando)
株式会社H&K 代表取締役
株式会社H&K 代表取締役CEO
20代前半から事業を展開し、バイアウト。その後、30年続くイベント会社で最年少でセールス・マーケの責任者。広告代理店で取締役CMOを経験。H&Kを創業。
@KOK1ANDO Youtube
1. 体験が報酬になる ~社会的報酬~
顧客への報酬には、クーポンやプレゼントのように「お得感」を出すものが多く用いられます。しかし、金銭的なものだけではなく、プロダクト体験そのものを報酬とする実験も必要です。習慣形成力の強い報酬にはモノやカネを使わないものが少なくないのです。
具体的には、
・フェイスブックの「いいね」機能
・航空会社のマイレージサービス(会員ステータス・専用ラウンジ・優先搭乗特典)
などがあり、これらは「社会的報酬」に当たります。
2. プロダクトの習慣化を促進する3つの戦略
プロダクトインセンティブフィットの考え方をもとに、自社プロダクトの価値に合った報酬を検討することになるのですが、金銭的報酬に頼らずに習慣化を促進する報酬として効果が高い戦略を3つ紹介します。汎用性と拡張性の高い戦略の見本となるはずです。
それは、以下の3つです。
1.ブランドアンバサダープログラム
2.ミッション達成への表彰
3.顧客関係のカスタマイズ
2.1 ブランドアンバサダープログラム
通常このプログラムは社会的報酬と実利的な報酬を組み合わせています。ユーザーに高いステータスを与えて社会的に表彰するとともに、様々な特典を提供する手法です。
世界最大のローカルビジネスの口コミサイトである「Yelp(イェルプ)」は「エリート・スクワッド」というプログラムを取り入れ、非常に上手く活用しています。
ユーザーはビジネスを最初にレビューすると特別な称号を与えられるほか、他のユーザーから「便利」「面白い」といったボタンで評価されるのです。これは、またレビューを書きたいと思わせる強力な社会的報酬です。
「エリート」の称号は特に熱心なユーザーへの報酬になります。これに加え、イェルプのイベントへの招待や優先入場券などの特典が提供されています。
この効果が絶大であることは以下の結果からも読み取れます。
2.2 ミッション達成への表彰
次は、ミッション達成への表彰です。表彰というのはどんな些細なことであっても嬉しいものです。この心理を利用するには、ユーザーが何か達成したときに表彰メールを送るという方法があります。マーケティング業界では「行動ターゲティングメール」とも呼ばれていて、例えばユーザーの節目となるタイミングでメールを送ります。
例:リストバンド型活動量計の「フィットビット」
1日に1万歩以上歩くとお祝いのメッセージを送ります。また、モバイルアプリの「ランキーパー」は初めて10キロ走り切ったときや、最長・最速記録を更新したときにメールで称えています。
このような達成時の通知は紹介プログラムでも欠かせません。招待した友達がサービスに登録したというメールが届けば、もっと招待しようという気持ちが生じるかもしれません。
他のユーザーの行動から達成感が生じるような場合でもこの通知は使えます。
例えば以下の場合です。
- ・ツイッターで投稿が「いいね」やリツイートされた時
- ・リンクトインで推薦状を受け取った時
- ・ユーザーのしばらくぶりの投稿写真を「いいね」するように他のユーザーに通知された時
友達の近況を見るために再訪問を促すとともに、新規ユーザーや久しぶりに利用したユーザーがフォロワーやいいね!を増やしやすくなる仕組みとなっています。
これは既存顧客の情報を管理して、顧客に合わせたアプローチをすることであるため、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を導入・活用することで達成に向かうことが可能です。
2.3 顧客関係のカスタマイズ
今日では、顧客情報のデータベースが拡大してそのデータを詳しく分析するツールが登場したことで、顧客のニーズと要望に、個人のレベルで応えられるようになりつつあります。
そのため、今までは「1対多」であったマーケティングの思想から「1対1」の体験を提供する意識へのシフトがみられています。これは、顧客の特性に合わせたOne to One マーケティングと言えます。
さらに近年は、機械学習アルゴリズムによるパーソナライゼーションの波が来ています。人がカスタマイズのルールを決めるのではなく、ソフトウェアが顧客の反応をもとにカスタマイズ内容を改善していきます。高度なテクノロジーではありますが、急速に利用しやすくなってきています。
パーソナライゼーションを実験するとしたら、最初に顧客に送っているトリガーからはじめることがおすすめです。ほとんどのメールマーケティングソフトには、過去の行動に応じてコンテンツや商品情報を変える機能など様々な選択肢がそろっています。
2.3.1 事例:Amazonの顧客関係
Amazonが先行しているパーソナライズ戦略は、巨大なデータセットとプログラミングの進歩によって、データから顧客の好みを効率的に抽出するシステムができたことで可能になりました。
その基盤となるデータには顧客から提供させた情報、自社サイトアプリ上の行動のほか、Web上でのより広い行動もあります。オンライン行動のデータはデマンドベースなどのマーケティング企業から簡単に手に入れることができます。
2.3.2 事例:ピンタレストの顧客関係
ピンタレストは機械学習でのカスタマイズと最適化に力を入れており、数十通りのメッセージを30ヶ国以上で迅速にテストする「コピーチェーン」というアルゴリズムを開発しました。コピーチェーンの効果は絶大で月間アクティブユーザーの増加率は急激に伸びたと言います。
2.4 (+α)新機能の予告の効果
ここまで、3つの戦略を説明してきましたが、新機能の予告も重要です。もうすぐ新しい機能や価値が追加されて、それがどう役立つかを伝えることは、ユーザーがプロダクトを使い続ける強力な動機になるのです。
これが特に有効なのはSaaSやゲーム、コンテンツ配信です。
ただし、新機能や新製品に触れこんで、ユーザーを不当に長く待たせていると思わせるリスクは避けなくてはなりません。ここでもまた実験によって予告のタイミングを計ることが重要です。実験の例を紹介します。
例:動画配信サービス
以下の条件・状況の動画配信サービスを想定します。
- ・人気シリーズのストリーミング権を取得
・配信開始までは3ヶ月あり - ・予告すればリリースまでの間は登録継続率が高まる
DXチームは同じような作品を視聴した人へのメール通知で、簡単なA/Bテストを行うことにします。
具体的には以下の2つを設定し、登録継続率を測定してテストの定量的なインパクトを比較するのです。
- ①新シリーズの予告メッセージを受け取る実験群
- ②通常のメッセージを受け取る対照群
予告メッセージが刺さって、実験群の維持率が高まったら「カミングスーン」戦術を顧客コミュニケーションのひとつとして実施しても良いでしょう。
3. 最後に
社会的報酬による習慣化について理解できたでしょうか。プロダクトの利用を習慣化させることによって、顧客維持率の高いユーザー基盤の構築が可能となります。
構築が済んだとなると、今度は長期的に満足度を保ち続ける必要が生じます。それについてはこちらの記事で解説しています。