DXを進める際の第一歩は「アハ・モーメント」を発見し、プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成することでした。ではDXを進める際の第二歩は何になるでしょうか?
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それは「成長戦略を練る」ことです。今回は「成長戦略の組み立て」について説明していきます。本記事を読むことで、DX化においても成長戦略を組み立てることがいかに重要かを理解することができます。成長に寄与しそうな要因を見つけ出す方法を知り、影響力の強い成長戦略を組み立てられるようになりましょう!
このブログのライティング者

安藤 弘樹(Koki Ando)
株式会社H&K 代表取締役
株式会社H&K 代表取締役CEO
20代前半から事業を展開し、バイアウト。その後、30年続くイベント会社で最年少でセールス・マーケの責任者。広告代理店で取締役CMOを経験。H&Kを創業。
@KOK1ANDO Youtube
<目次>
1. DX化における成長戦略組み立ての重要性
成長するためのアイディアをスピード感のある検証にかける前に、成長の要素にはどのようなものがあり、求めるべき成果を上げるのに適している要素は何かを理解することで、成長への道筋を決定していく必要があります。
力強く成長を続けられるか、成長せずに衰退していくのかはこの成長戦略にかかっています。
素晴らしいプロダクトを開発し、一部のアーリーアダプターに人気を得たとしても、成長を加速させる努力をしねければ失敗におわってしまうでしょう。
写真アプリの「エバーピックス」の事例をみてみましょう。エバーピックスは、いくつものデバイスで大量の写真を整理するのが面倒なユーザーのために、作業を簡略化してくれるアプリです。出来が良く、操作もわかりやすいため非常に高い評価を得ていました。5万5000人の初期ユーザーは非常にアクティブで、約半数が週1回以上アプリを使用し、有償版へのコンバージョンも12.4%という驚異的な数字をたたき出しました。平均的なコンバージョン率が1%程度であることを考えると驚くべき数字であることがわかるでしょう。
しかし、エバーピックスは致命的なミスを犯しました。成長スピードを上げようとしなかったのです。人気とコンバージョン率の高まりは実は没落へのカウントダウンでした。プロダクトの機能追加や営業費用によって資金は尽きかけ、廃業の危機にせまられました。
エバーピックスはグロースハックをとりいれましたが、プロダクトの改善に捉われ続け、実験を繰り返すようなことは行っていませんでした。結局資金難から抜け出すための希望は追加の出資要請に託されました。しかし、今後の成長を示せる指標がなかったので、投資家やベンチャーキャピタルへのピッチは失敗が続き、アプリそのものも失敗に終わってしまいました。
2. DX化成長戦略のファーストステップ
では、成長戦略をうまく組み立てていくにはどうすればいいのでしょうか?
成長戦略の組み立ての第一歩は、プロダクトの成長にとって最も意味のある指標を見つけることです。特に小さなDXチームであればあるほど、最大のインパクトが見込める実験に集中することが必要になります。その実験のカギを握るのが指標になります。
2.1 基礎的グロース方程式
指標を見つけるには「基礎的グロース方程式」を定義するのが手っ取り早いです。基礎的グロース方程式とは、成長を促す主要因をすべて含むシンプルな数式のことです。
例えばオンラインショッピングサイト「イーベイ」の例では
総取引数の成長 = 出品中のセラー数 × 出品数 × バイヤー数 × 成約数
となりますし、Amazonのために考案された方程式は
収益成長 = 取引カテゴリーの拡大 × カテゴリーごとの商品在庫 × 商品ページごとの訪問者数 × 購入率 × 平均購入単価 × リピート購入率
となります。
2.2 受注金額から逆算する
基礎的グロース方程式とは異なり、最終的な「受注目標金額」を設定し、逆算で細かい数値を設定することで成長戦略を見つけ出すという方法もあります。
理想の受注金額目標と「商談単価」が決まれば、「受注件数」が決まります。受注の前には必ず商談をする必要があり、商談から受注に移行する「受注率」を設定すれば「商談数」が求まります。見込み顧客(リード)をどの程度商談に持ち込めるかという「商談化率」も設定すれば「リード件数」が求まります。
このように、より細かい要素を求めることで、現状と目標としている数値の近い部分と乖離している部分が明確になります。集客から受注までの一連の流れの中で、どの部分に集中して戦略を立てれば良いのかが分かりやすくなります。
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2.3 成長戦略における個別的な要因
新規顧客の獲得数、維持率の改善などあらゆるプロダクトに共通するような成長要因もありますが、より個別に合った成長要因が必ず存在します。
伝統的なマーケティングや既製のデータ分析ツールで追跡する基本指標も役には立ちますが、自分たちが成長させたいプロダクトやビジネス特有の具体的指標を設定することの方が重要です。この具体的指標を見つける際には、プロダクトのコアバリューを体験しているユーザー数と綿密な相関関係にある行動を探るのが良いです。
例えばフェイスブックだと、友達申請数やサイト訪問頻度、投稿数やコメント数、サイト滞在時間などがこれにあたります。ユーザーがアハ・モーメントにたどり着くまでに必ず踏むステップについての指標とその頻度については追跡する必要があります。
基礎的グロース方程式の例を見ると、単純化されすぎているように見えるかもしれません。しかし、極限まで単純化したところにグロース方程式の真価があるのです。
いまや初歩的な分析ツールであっても顧客行動に関する膨大なデータを得ることができます。その膨大な指標の中からプロダクトの成長にとって最重要なものを見つけなければ、進路を見失ってしまう恐れがあります。
3. DX化における北極星指標とは?
グロース方程式の真価について説明しましたが、この単純な方程式をつくるプロセスまで単純明快になるとは限りません。直感的には非常に重要だと思えても、実際には持続的な成長にほとんど寄与しない指標も存在するからです。ある企業にとって成長の主要因となる指標が別の企業にとっては主要因ではないということもよくあります。
ビジネスの世界では持続的な成長に寄与する指標を「北極星指標」とよびます。北極星指標をいち早く発見することがDX化においてもとても重要です。
3.1 エアアンドビーの場合
エアアンドビーなどの旅行サービスにおいて、日次のアクティブユーザー数が増えていることは印象よく映るかもしれませんが、指標としては意味がありません。いくらサービスを気に入っているユーザーでも宿の予約を毎日する人はいないからです。レビューサイトのようなプロダクトも毎日のように使う可能性は低いと考えられます。
3.2 リンクトインの場合
初期の「リンクトイン」においては総登録者数を指標として重視していました。登録しただけで活発に利用しないユーザーは実質的な価値は低く、あまり意味がない場合も多くあります。しかしリンクトインにとっては履歴書を入力しただけでサイトをほとんど訪問しないユーザーでも単純に数の多さが価値を決めるのです。
その理由はリンクトインの収益構造にあり、より多くの採用関係者を惹きつけて収益成長を促すには「デジタル履歴書」の掲載量が最重要であったからです。
3.3 イーベイの場合
対照的なのがイーベイで、重要指標はユーザー数でなく、出品されている商品数となります。サイトに掲載されている商品が多ければ多いほど、買い手は目当ての品物を見つける可能性が高まり、売り手も販売チャンスが広がります。
買い手と売り手の体験するアハ・モーメントが増えればユーザーのリピート率も高まり、ますます多くの商品が売れるようになります。イーベイではサイト訪問者数を増やすのと同じくらい、あるいはそれ以上に出品されている商品数が重要な指標となるのです。
さいごに
本記事では、成長戦略を策定する重要性と策定のファーストステップ、北極星指標について解説しました。
企業ごと、ビジネスモデルごとに成長戦略も指標も異なります。自社に最も適した戦略と指標をいち早く見つけ、それらを用いてプロダクトの力強い成長を遂げることが企業の成長につながります。基礎的グロース方程式や目標受注金額から戦略を決める手法など、本記事で紹介した方法を実際に使ってみましょう!自社で判断することが難しい場合は、外部のコンサルティング会社などに相談するのも一つ手の手です!