本記事では、顧客維持の重要性について、事例やDXサイクルを交えつつ解説していきます。
顧客維持のメリットだけでは無く、顧客維持に失敗した場合についても解説していきますので、顧客維持の重要性を本記事で自覚し、施策へと繋げていきましょう。
このブログのライティング者

安藤 弘樹(Koki Ando)
株式会社H&K 代表取締役
株式会社H&K 代表取締役CEO
20代前半から事業を展開し、バイアウト。その後、30年続くイベント会社で最年少でセールス・マーケの責任者。広告代理店で取締役CMOを経験。H&Kを創業。
@KOK1ANDO Youtube
1. 顧客維持で顧客生涯価値(LTV)を高める
「企業の目的は顧客の創造と維持にある」
これは、著名な経営学者ピーター・ドラッカーの言葉です。
どんな企業も顧客をしっかりと維持することが利益の拡大に欠かせません。しかし、ほとんどの企業は顧客離脱率の高さに頭を抱えています。
1.1 顧客維持の価値
ベインアンドカンパニーとハーバードビジネススクールの合同研究チームによると、顧客維持率が5%上昇すると利益は25%~95%も増えるという結論が得られています。
顧客を長く維持すれば、それだけ商品やサービスを多く販売できますし、その分ある顧客が取引を終えるまでに自社にもたらす利益が大きくなります。つまりは顧客生涯価値(LTV)が増大するのです。
他にも顧客維持には、クチコミとバイラルマーケティング施策の効果が高まるという利点もあります。プロダクトを長く使っていれば、当然それだけ友達や知り合いに見せたり話したりする機会が増えるからです。
1.2 顧客維持の失敗による影響
顧客維持の改善が絶大な効果を生じさせる一方で、顧客維持の失敗(顧客離脱)は大きな損失につながります。
顧客維持に対して、顧客獲得のコストが高いということがその理由のひとつです。
それを表す法則に「1:5の法則」があります。これは、新規顧客の獲得には顧客維持の5倍のコストがかかるという法則です。
現在はなおさら、激しい入札競争でオンライン広告が高騰しており、新規顧客を呼び込むための先行投資に比例して、離脱による損失が大きくなっています。

2. 顧客維持の事例
2.1 顧客維持の失敗例
顧客維持に失敗した企業の例としては、清掃代行サービスを提供するスタートアップ企業のホームジョイが挙げられます。
創業当初はシリコンバレーの有力投資家から6400万ドルの以上調達して順風満帆でした。しかし、初回限定の特別価格を打ち出して多くの新規顧客を獲得したものの、宣伝通りのサービス品質を提供できませんでした。
その結果、「当たり外れが大きい」と不満が湧き上がりました。そして2回目以降の通常価格が高価であったこともあり、リピート率は15~20%にとどまりました。これは競合他社の顧客維持率のわずか半分ほどで、獲得コストの高さと顧客維持率の低さが重なって経営はすぐに行き詰まってしまいました。
2.2 顧客維持の成功例
顧客維持のお手本となるのがAmazonです。
有料会員プログラムの「アマゾンプライム」のある時点での継続率は以下の通りでした。
2年目への継続率:91%
3年目への継続率:96%
高い維持率が見て取れます。また、アマゾンプライムの会員は非会員より2倍も多く商品購入するといい、このことからも、顧客維持率の向上が長期的な収益アップにつながることが直感的にわかるでしょう。
また、顧客を長く維持することができれば、顧客を深く理解してニーズや要望をつかむことができて、サービスやプロモーションを個人に最適化して収益をさらに伸ばすことができます。
Amazonのプライムプログラムは当初、送料と会員向けの値引きの負担が大きすぎて続かないとも言われましたが、Amazonには継続率と購入額の高さを大きな利益につなげる勝算があったのです。
3. DXサイクルの活用法
顧客獲得コストが高まり他社との競合が激しくなっている状況では、企業は今すぐ顧客維持率を見直して離脱を食い止めると同時に、LTVを高めていかなければなりましせん。
ここではDXのサイクルが役に立ってきます。
簡単に言うとDXサイクルとは、①データ分析・洞察収集、②アイディアの生成、③実験の優先順位付け、④実験の実施です。
例:架空のスーパーマーケットのアプリチーム
①データ分析・洞察収集
このチームが顧客データを詳しく追跡したところ、ダウンロードから1ヶ月ほどすると多くの利用者が使わなくなっていることがわかりました。これはモバイルアプリによく見られる傾向です。そこで、アプリを継続的に利用し続けてもらうために以下の3つのアイディアが出されました。
- モバイル端末へのメールを増やして利用再開を促す
- 人気商品をアプリ限定の特別価格で提供する
- 好評だったショッピングリスト機能のように、アプリの利便性を高める新機能を追加する
②アイディアの生成
①でのアイディアはどれも効果がありそうですが、コストは無視できませんし、それぞれ以下のようなことが考えられます。
- 販促メッセージやトリガーを送りすぎて迷惑に思われるようなことは避けたい。メールを増やせば短期的には利用率を上げられるかもしれないが、逆効果になる可能性がある。
- アプリ内の促販は既にアプリを使っているユーザーの購買を増やす効果はありそうだが、そもそもアプリをほとんど使っていない顧客に働きかけたい場合には効果が薄そう。
- 新機能は、開発コストが大きいうえに長期的にもアプリの利用頻度が高まるかと言われると、そこに保証は無い。
③実験の優先順位付け
複数の候補から最初にテストするアイディアを素早く選んで、迅速に結果を得て今後の進め方を決めていきます。
④実験の実施
アプリチームは、まずはメール通知を増やすことに決まりました。
わずか数週間の実験の結果、メールを週に1通増やすとアプリへの復帰率は10%程度ですが、2通増やすとそれが35%に高まることを学習しました。顧客維持やLTVを高められる兆しの発見です。
その結果をもとに、翌週からすべての休眠ユーザーに2通のメール通知を送ることが正式に決定しました。
4. 最後に
本記事では、事例を用いて顧客維持の重要性について解説しました。顧客維持の恩恵、顧客離脱の危険性を感じていただけたでしょうか。
アマゾンプライムは特に馴染みのある例だったと思いますが、より身近なものではポイントカードも顧客維持の手段の一つです。このように、皆さんの身の回りにも顧客維持の事例は散らばっていますので、是非探してみましょう。
