この記事では、経営戦略の中の「事業戦略」について説明します。
事業戦略とはある特定の事業において利益を得るための基本方針のことです。
企業を持続させるには、数ある企業の中でポジションを決め、継続的に利益を獲得する必要があります。
しかし自社の持つ人・物・金・情報のリソースは限られるため、自社の強みや、外部環境を分析しリソースの分配を行います。
その際に必要になるのが、事業戦略の策定です。
今回は個々の事業を導くための戦略である「事業戦略」に焦点を当て
・事業戦略とは何か
・事業戦略の策定方法
・戦略策定に役立つフレームワーク
この3点を中心に解説していきます。
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1.事業戦略とは何か
1-1経営戦略との違いは?
そもそも経営戦略とは、企業が持続的に利益を得る、増やすために自社の持つリソースをどのように活用するかという企業経営の基礎となる考え方です。
経営戦略は大きく3つに分かれます。
・全社戦略(企業戦略)
自社の事業領域の設定、経営資源の配分、事業拡大の方向性などを決めるための戦略です。
事業の集まりとしての企業全体の利益を問題とします。個々の事業で得た優位性を企業全体で捉えたときに事業間同士のシナジーを生み、企業を一つにする戦略が全社戦略です。
・事業戦略
個々の事業において、市場で競争優位を獲得するために自社の強みや、外部環境を分析し持続的に利益を得る為の戦略です。全社戦略に対し、事業戦略は個々の事業に注目します。
・機能別戦略
事業戦略に基づき、研究開発、生産、販売、サービス、購買などの機能別に別れた戦略です。機能別戦略では、事業戦略で決めた方向性を基に、その担当部署に落とし込んでいきます。
1-2事業戦略の重要性
全社戦略、事業戦略、機能別戦略が一つでも欠けると、企業は持続的に利益を獲得することは出来ません。
全てに使える戦略などなく、多くの事業を持つ企業にとって、事業戦略は事業ごとの課題に対応するために必要になります。
事業を置いている環境と自社の強みを組み合わせ、利益を獲得するための策定方法を次に説明します。
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2.事業戦略策定のプロセス
2-1 事業目標の設定
まず最初に経営理念、ビジョン、全社戦略などとの整合性をふまえ、「いつまでに、何をするか」という事業目標を具体的な数字をもって明確にしていきます。
具体的には
・事業の規模を大きくするかor収益性を高めていくか
・事業が中・長期的かor短期的か
などを考慮して、目標を決めていきます。このような目標を明確にしないと、次に行う方向性の検討や市場環境や競合分析もブレが出てしまいます。
2-2方向性の検討
事業目標を設定したら、次に事業の方向性を検討していきます。
市場競争の中で持続的に利益を獲得するためには2つのアプローチが考えられます。
・自社の強みを活かす
・機会(流行)に乗る
1つ目の「自社の強みを活かす」はアップルがソフトウェアやブランド力を活かし、腕時計市場に参入し、シェアを高めていくなど、市場の中で利益を獲得していくには差別化が不可欠です。ターゲットとなる市場の中で、自社の強みがどのような差別化に繋がるのかを考えていきます。
2つ目の「機会(流行)に乗る」ことも重要です。飲食店の行列などがテレビで放送されることもあるように、その時期によって流行というものがあります。流行に乗ってしまえば、自社の強みとすることでは無くてもある程度の利益を獲得することができます。しかし、流行が変わるたびに戦略を策定しなおさなくてはなりません。
事業の方向性を考える際に役立つフレームワークを紹介します。
これらのフレームワークを参考に事業の方向性を議論していきましょう。
2-3事業評価
事業の方向性が固まってきたら次に事業の評価をしていきます。
主に市場・競合・自社の3つの観点で評価をします。
洗い出した自社の強み・弱みは絶対的なものではなく、相対的なものです。強みだったものが、その環境では弱みになることもあったり、またその逆も考えられます。3つの視点で評価をすることでさらに事業に磨きをかけていきます。
事業評価の際に参考になるフレームワークを紹介します。
これが戦略策定のプロセスになります。
目標を定め、方向性を決め、評価をする。この流れでより具体的な事業戦略になったのではないでしょうか。
このプロセスを基に議論や細かい分析をし、機能別戦略に落とし込んでいきましょう。
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3.事業戦略に使えるフレームワーク6選
戦略を考える上で、当事者になるほど視野が集中して全体を見渡せなくなるため、フレームワークを用いて整理しましょう。
フレームワークを使う上での注意点は以下の通りです。
①強み、弱みは絶対的なものではなく、相対的なものです。
②ただフレームワークに埋めていくだけでは有効な示唆は得られません。大事なのはそれぞれの項目において、何をどのように見ていくのかという視点です。
③どこまでを自社の競合環境にするかで大きく異なるため、複数の階層で分析を行いましょう。
ビジネスの世界では正解はありません。その中で意思決定をしていくには選択肢を持ち、議論することが大切になります。
上手くフレームワークを使って納得感のある戦略立案の策定に役立てましょう。
3-1 SWOT分析
SWOT分析では、自社を取り巻く外部環境と自社の強み・弱みを把握し、それらを組み合わせた戦略の策定の助けとなります。
強み(Strength) 内部環境×ポジティブ
弱み(Weakness) 内部環境×ネガティブ
機会(Opportunity) 外部環境×ポジティブ
脅威(Threat) 外部環境×ネガティブ
の頭文字をとってSWOT分析と呼ばれます。
3-2 PEST分析
時代の流れや大きなトレンドを考慮しない戦略よりも、時代の流れをしっかり読んだ打ち手の方が成功の確率が高くなります。
・政治(Politics)
・経済(Economy)
・社会(Society)
・技術(Technology)
この4つの視点で外部環境を理解するフレームワークです。
PEST分析は顧客や競合などより具体的な対象を分析する3Cと比較してよりマクロな視点が要求されます。
3-3 STP分析
STP分析とは
セグメンテーション(Segmentation)
ターゲティング(Targeting)
ポジショニング(Positioning)
この3つの頭文字からとったもので、市場で優位なポジションに立つために参考になるフレームワークです。
セグメンテーションでは、人口・地理・心理などの切り口で市場を細分化します。そして、細分化した市場の中からターゲットを決定するのがターゲティングです。
これまでの分析結果から競合他社と比較して自分たちが優位になる立ち位置を決めます。
これらのプロセスや、他のフレームワークとも掛け合わせ、マーケティング戦略を決定していきます。
3-4 3C分析
事業戦略に限らず、様々な場面で活用される機会が多いフレームワークです。
市場・顧客(Customer)
競合(Competitor)
自社(Company)
この3つの頭文字をとり3C分析と呼びます。
事業戦略を立案するためにはターゲットとする顧客を特定し、ニーズを明らかにする必要があります。(Customer)
ニーズに合う行動をとれば良いのですが、自社でできることは限られています。(Company)
自社の実行可能な範囲の中で選択をし、その中で競争に勝たなければならないため、ライバルにも注目する必要があります。(Competitor)
この3Cを分析することで、ミクロ・マクロの視点で捉え、様々な要因を組み合わせながら事業戦略を考えることの助けとなります。
ここまでの分析を詳しく説明している記事はこちら
マーケティング環境分析の手法とは?分析に必要な3C分析やPEST分析、SWOT分析について解説!
3-5ファイブフォース分析
ファイブフォース分析はRBV(リソース・ベースト・ビュー)という企業の持つリソースを用いて優位性を獲得していくという理論に基づいたフレームワークであり、産業分析に役立ちます。
このフレームワークでは、産業の収益性は5つのフォース(脅威)で規定されると考えています。
①売り手の交渉力
②業界内での競争
③買い手の交渉力
④新規参入の脅威
⑤代替品の脅威
フォースが強い産業ほど競争が生まれるため、収益性が低下します。逆に弱いほど独占・寡占状態に近づいているため収益性が高くなります。
ファイブフォース分析はユニークな競争戦略を生み出すためには自社が位置する環境がどの程度激しい競争の中にあり、その競争の激しさを決めているのはいかなる要因かを理解する助けとなるフレームワークです。
3-6 VRIO分析
企業の「強み」に繋がるリソースとはどのような要素なのか、
ユタ大学大学院の教授であるジェイ・B・バーニー氏は以下の4つによって評価できると述べました。
・経済価値(Value)
・希少性(Rarity)
・模倣困難性(Imitability)
・組織(Organization)
上から下に行くほど競争優位に繋がるリソースになると考えられています。
つまり、経済価値が高く、希少性もあり、模倣が困難であってもそれを使う組織が整っていなければ強みを活かすことができないということです。
自社の持っているリソースを最大限活用するためにも、組織作りにも注力しましょう。
4.事業戦略の注意点
4-1 一貫性を保つ
1つ目の注意点は「一貫性を保つ」ということです。事業戦略は独立している物ではなく、理念、ビジョン、企業戦略などがある中での事業戦略です。目的をメンバーで共有し、フレームワークなどの手段が目的にならないように注意しましょう。
4-2 意思決定方法
2つ目の注意点は「意思決定方法」です。ビジネス上の意思決定には正解はありません。正解がない中でより確率が高くなるような意思決定をするには議論が不可欠になります。その中で過去の経験を重視しすぎたり、自分の意見を正当化させるための情報収集を無意識にしてしまう可能性もあります。このようなバイアスにかからないような組織作りにも心掛けましょう。
まとめ
ここまでの話をまとめると、以下の通りです。
・事業戦略とは個々の事業で利益を獲得するための戦略
・事業戦略策定には目的・方向性・評価が必要
・フレームワークは議論を深めるためのツール。
個々の事業で競争優位を獲得するためには事業戦略が必要です。
策定に当たっては、目的を設定し、事業の方向性を定め、様々な角度で評価を行い、実行に繋げます。
絶対的な「強み」「弱み」などはありません。属しているフィールドをフレームワークを参考に詳しく分析し、組み合わせて議論することが重要です。
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