収益を伸ばしていく上で難しくも重要なのは価格設定です。本稿では、そんな価格設定の最適化の手法について解説していきます。
皆さんが実際に再現できるように、具体例を交えながら段階的に解説していきます。少々長い内容ですので、項目ごとで振り返りながらお読みください。
このブログのライティング者

安藤 弘樹(Koki Ando)
株式会社H&K 代表取締役
株式会社H&K 代表取締役CEO
20代前半から事業を展開し、バイアウト。その後、30年続くイベント会社で最年少でセールス・マーケの責任者。広告代理店で取締役CMOを経験。H&Kを創業。
@KOK1ANDO Youtube
1. 収益獲得における価格設定の重要性
価格が収益に大きな影響を与えることを理解できていれば、収益を伸ばす上で重要なのが価格設定であることは容易に想像できると思います。
しかし価格設定は難しく、価格が低すぎれば収益を取りこぼし、高すぎれば顧客が定着せず同じく収益を取りこぼしてしまいます。
企業が価格設定を誤る要因は様々です。例えば、
- ・初期価格を決めたときの分析が不十分
- ・価格設定の実験を十分に行っていない
- ・市場に受け入れられないほど価格が高い
- ・値下げを急ぎすぎる
といったことが挙げられます。
価格設定を誤らないためにも、DXチームがプロダクト部門や財務部門と共同で顧客調査とアンケートを行い、最適な価格帯の目星をつけて実験で確かめることが必要となります。
2. 価格設定:実物のある商品
物理的な商品を販売している企業は、価格設定の考え方が比較的ストレートで、取扱商品の生産原価、仕入原価に販促費と輸送費を加えて利益を乗せた価格にするのが基本です。コストプラス法と言います。
[ 価格 = 費用 + 利益 ]
価格設定の参考になり、販促効果が認められている手法を紹介します。
2.1 端数価格
販促効果が認められている手法の1つである「端数価格」の効果は、聞いたことがある人も多いかもしれません。
これは価格の末尾が切りの良い数字ではなく「9」や「95」、「98」となっている価格のことで、購買意欲にプラスの影響を与えるのです。
2.2 その他の心理テクニック
人間心理を利用したテクニックには、高めの商品価格と対比させること(コントラスト効果)や、通貨記号を表示しないことでお金の刺激を減らすといったことがありますが、いずれも顧客の行動に影響を与えられます。
あらゆるプロダクトに共通して有効な戦略はありません。しかし、心理テクニックには紹介した以外にも多くの種類があり、価格設定の最適化に向けた実験のアイディアを探す一つの手段になります。
3. 価格設定:原材料費のない商品
では、原材料費のないWebベースのソフトウェアなどはどうすればよいのでしょうか。
プライス・インテリジェントリーのCEO、パトリック・キャンベルは、SaaSプロダクトの適正価格を見極めるベストプラクティスを数多く発信しています。
3.1 顧客アンケートによる価格設定
出発点として勧められているのは顧客アンケートです。どの機能が最も重要か尋ねるだけではなく、次の4つの質問を順番通りに投げかけることで、顧客に受け入れられそうな価格を推定します。
- 1.この製品の価格がいくら以上なら高すぎて買う気が起こらなくなりますか?
2.この製品の価格がいくらまで下がれば、高くても買う気になりますか?
3.この製品の価格がいくらまで下がればお買い得だと思いますか?
4.この製品の価格がいくらまで下がると安すぎて品質が不安になりますか?
このアンケートの回答から高すぎる価格と安すぎる価格、そして適正価格の範囲が浮かびあげっていきます。このようにグラフ化すると分かりやすいでしょう。
(出典:Hacking Growth グロースハック完全読本 / 日経BP)
グラフ中央のひし形にかかる範囲が、実験に適した価格帯を示しています。
3.1.1 顧客アンケートの価格設定の"穴"
実際には顧客の回答のみで価格設定を行うことはできません。他にも多くの要素が絡むからです。
例えばコストはもちろん、競合製品についての市場調査も考慮する必要があります。また、DXチームだけで価格を決めることはできないため、財務部門と連携しながら経営陣の承認も得ることが必要です。
3.1.2 顧客アンケートの意義
価格について真正面から尋ねても、顧客が自分の利益しか考えず過小評価された回答結果が出ると思う人がいるかもしれません。
それでも、アンケートや聞き取り調査で集めたフィードバックは少なくとも価格設定の目安にするべきですし、設定した価格でのターゲット層を知るヒントにもなります。
3.2 機能と価格のマトリックスを作成
価格についてのアンケート結果が出たら、機能についてのアンケート結果と組み合わせて、顧客が求める機能と受け入れる価格のマトリックスを作成しましょう。そうすることで「ペルソナ・プライス・フィット」が実現するのです。
例:動画配信サービス
アンケート調査や分析から、対照的な二つの顧客グループがあると分かったとします。
片方は動画を好きな時に広告なしで見られる基本的な機能さえあればいいというグループです。もう一方は至れり尽くせりのエンターテイメント体験を求めているグループです。
DXチームは各グループの典型的な顧客像、つまりペルソナを設定してそれぞれを「ベーシック・ポニー」と「オールアクセス・アンドリュー」と名付けました。この特徴をまとめるとこのようになります。
(出典:Hacking Growth グロースハック完全読本 / 日経BP)
こういった好みの違いを把握することで、実験の目星がつけられます。
例えばかなり高めの月額料金を払ってもよいと考えている顧客に対して、視聴できる端末数と同時利用できる家族会員を増やした、より高額のプランの実験を行うというようにです。
3.3 価格設定後:価格の提示
適切な価格設定ができたとして、その価格をどのように顧客に提示するかも重要です。
(出典:Hacking Growth グロースハック完全読本 / 日経BP)
複数の料金プランがあるならそのプランごとの特徴を見比べやすくして、基本プラントの差額が妥当かどうかを簡単に確かめられるようにします。
3.4 価格設定後:価格の見直し
価格設定が決まっても、放置せずに見直すようにしましょう。一度決めた価格を不可侵の領域のように扱ってはいけないのです。
SaaSなら4半期に一度は価格変更をテストして、インターネット通販ならばより機動的に実験し続けることが望ましいです。
インターネット通販などの機動的な価格設定は「ダイナミックプライシング」と呼ばれます。在庫状況や季節性、時刻、購入履歴といったデータをもとに価格を絶え間なく変更・実験することで、購買と利益の最大化をはかるものです。
ただしパーソナライゼーションと同様、ダイナミックプライシングも一歩間違うと逆効果になってしまうので注意は必要です。
▶▶▶パーソナライゼーションについてはこちらの記事をご覧ください
4. 価格の相対性
これまで、度々「実験」というキーワードが登場しました。
価格に関する実験で経営陣の協力を得るには、長きにわたる研究と実験を通じて既に実証されている知見を取り入れる必要があります。その一つが「価格の相対性」です。
これは、ある価格への許容度は他の選択肢の価格に影響されるという理論です。
価格の相対性は、イギリスの雑誌「エコノミー」の購買申込ページを用いた実験によって明らかにされています。
実験:雑誌「エコノミー」
(出典:Hacking Growth グロースハック完全読本 / 日経BP)
このページをマサチューセッツ工科大学の学生100人に見せ、どのプランを選びたいか尋ねました。
当然印刷版は誰にも選ばれず、Web版は16%、Web版と印刷版のセットが84%という結果になりました。
次に真ん中の印刷版を除いた2者択一のバージョンで別の100人に尋ねたところ、何とWeb版が68%に急増したのです。
講読プラン | 3つのプラン | 2つのプラン |
デジタル | 16% | 68% |
雑誌 | 0% | (無し) |
雑誌&デジタル | 84% | 32% |
中位価格があると選択肢の価値を比較することができ、お得感から高価格のプランを選びやすくなるのです。
ここで言えることは、自社で売りたいプランや商品の相対的な価値が効果的に伝わるように、価格の選択肢を実験する必要があるということです。
5. 最後に
いかがだったでしょうか。顧客アンケートを利用したり人間心理を考慮して設定するなど、価格設定の最適化のアプローチは様々でした。
また、「設定」と言うと、設定して終わりのように思えますが、価格設定後にも見直しが必要だということを忘れないようにしましょう。