皆さんはAmazonや楽天で買い物をしていると、おすすめ商品が表示されたことがあるのではないでしょうか。
このようにデータを活用してユーザーに合わせた製品・サービスをレコメンドするマーケティング手法が存在します。それはパーソナライゼーションです。収益化の戦術としても非常に優れているアプローチ方法です。
この記事では、パーソナライゼーションに取り組む上での注意点やそ
の対処方法を具体例と共に解説していきます。
このブログのライティング者

安藤 弘樹(Koki Ando)
株式会社H&K 代表取締役
株式会社H&K 代表取締役CEO
20代前半から事業を展開し、バイアウト。その後、30年続くイベント会社で最年少でセールス・マーケの責任者。広告代理店で取締役CMOを経験。H&Kを創業。
@KOK1ANDO Youtube
1. 効果的なパーソナライゼーションとは
パーソナライゼーションで特に効果的なのは、レコメンド機能のカスタマイズです。
レコメンド機能とは、ECサイトなどでユーザーの購入履歴や閲覧履歴をもとに、商品をおススメして購入を促す機能です。
顧客が訪問しているサイトやアプリで実施するのが一般的ですが、メールやプッシュ通知によっても行うことができます。
レコメンド機能の事例:顧客データを活かしたAmazon
この戦術でリードしているのはAmazonで、サイト訪問者に合わせて商品を勧める「レコメンドエンジン」が非常に強力です。
訪問者の検索履歴や購買習慣に加えて、似たタイプの顧客の行動データを組み合わせておすすめ商品を選んでいます。これにより、全てのAmazonユーザーは自分専用のページを訪れて、好みに合わせてカスタマイズされた自分だけの体験をしているのです。
1.1 レコメンドエンジンの土台「ジャッカード係数」
AmazonやGoogleが開発しているレコメンドエンジンは非常に複雑ですが、この根本にある計算式は比較的シンプルなものです。
ビジネスインテリジェンス・ソフトウェア企業の「ルッカ―」でアナリティクス責任者をつとめるコリン・ジーマによると、このジャッカード係数を用いればレコメンドを生成するのは難しくないと言います。
J(A,B) = |A∩B| ⁄ |A∪B|
これは2種類のプロダクトがお互いにどれだけ似ているかを表す式で、見た目以上に実は単純です。
この式の意味は、AとBという商品があるとして、それらの類似性はAとBの共通部分をAとBの和集合で割ったものに等しいということです。
ジャッカード係数の計算例
スーパーマーケットのアプリチームを例に考えてみましょう。
アプリでよく買い合わせされている商品を勧めることで平均注文単価が上がるという仮説を立てたとします。
このレコメンドの効果を高めるには、ある商品を購入する顧客が別の商品を同時に購入する可能性が、他の組み合わせよりも高いという計算結果を得る必要があります。頻繁に同時購入されている商品を勧めることで、顧客はレコメンドされた商品をカートに追加する可能性が高まるはずです。
ジャムとピーナッツバターの2つの商品で考えてみます。この時、ジャッカード係数における「AとBの共通部分」は、ピーナッツバターとジャムの両方を購入した顧客を指します。「AとBの和集合」はピーナッツバターとジャムの少なくとも一方を購入した顧客を指します。
両方を購入した顧客が30人で、少なくとも一方を購入した顧客が100人だったとするとジャッカード係数は0.3になります。
J(ピーナッツバター,ジャム) = 30 ⁄ 100 = 0.3
これは類似性としては非常に高い部類になります。これがピーナッツバターと洗剤の組み合わせだったらもっと低い数値になるでしょう。
ジャッカード係数の計算の効果
このような計算をすべての取扱商品の組み合わせについて行うことで、購買を促進する強力なレコメンドができるようになります。
優れたレコメンドエンジンであれば購買データを蓄積していき、レコメンドの精度とパーソナライズの性能を自動で高めていきます。顧客それぞれの行動だけではなく、広い顧客層に共通するパターンもわかってくることで精度向上は可能になります。
先ほどの例で言えば、ピーナッツバターとジャムという関連商品を購入してもらえる様な施策をすることで、顧客の平均注文単価を上げ、LTV(顧客生涯価値)の最大化へ繋げることが出来ます。
2. パーソナライゼーションの注意点とは
ここまでレコメンド機能の仕組みや効果を解説してきましたが、このようなパーソナライゼーションには気を付けなければならないことがあります。
それは、逆効果になり得るということです。2つのパターンで見ていきましょう。
2.1 人のプライバシーに踏み込む
私生活を監視されていると感じさせるようなことは避けなければなりません。
失敗例として有名な事例を紹介します。
失敗事例:ショッピングセンター
パーソナライゼーションによって、10代女性の妊娠を親にばらしてしまった話があります。
このショッピングセンターがベビー服とベビーベッドのクーポンをその女性に送ったところ、父親を怒らせてしまいました。
ところが数日後、謝罪の電話をすると父親は決まりが悪そうにこう言いました。「娘と話したんだけどね、どうも我が家では私の知らないことが起きていたらしい。8月に生まれるそうだ。謝るのはこちらの方だ。」
これで一件落着かと思いきや、これをマスコミが報道したため、顧客と消費者団体からは非難の声が上がり、データマイニングとパーソナライゼーションはプライバシーの侵害にあたるとみなされるような事態があったのです。
2.2 非効果的なレコメンド機能
精度の低いレコメンド機能も、顧客の離脱を招く要因にもなることでしょう。
衣料品店で嗜好の合わない服を勧められたり、ネットフリックスから興味のないもしくは嫌いなジャンルの映画をレコメンドされたりと魅力でない提案を受けることで、興味を惹かれないどころか、腹が立つような場面もあるかもしれません。
この様な的外れなパーソナライゼーションは、収益化にむしろマイナスになってしまいます。
3. 効果的にパーソナライゼーションを進めるには
先ほど紹介したような逆効果になることを防ぎ、効果的にパーソナライゼーションを進めるには、グロースハックチームによる実験が欠かせません。
カスタマイズ施策の効果を予測するには、パーソナライズしたメールやテキスト通知を少数の顧客に送って反応を見るのが良いでしょう。
これを最初に行うことで、カスタマイズされた体験の効果についての初期データを収集して、結果が良いものにだけ追加投資することができます。
スーパーアプリのチームの例でいえば、1回だけ購入したことがある顧客に送料無料クーポンを送って2回目の購入を促す実験をして、効果が確かめられたら次は購入履歴のあるユーザー全員に送料無料特典をアプリから通知するような実験に段階的に進むことが考えられます。
4. 最後に
レコメンド機能の有用性については身をもって経験している方が多いと思いますので、反対のパーソナライゼーションに取り組む上で注意すべきことについて、ぜひとも本記事から学びを得てください。
効果的なパーソナライゼーションを行って、ユーザーに無二な体験を提供することで収益の増大を目指していきましょう。