顧客の収益化のチャンスを探るためには、ユーザーを分割して分析する「コホート分析」を行う必要があります。そこで本稿では、収益の額に重点を置いたコホート分析を扱っていきます。
分析して終わるのではなく、収益化に繋げられる施策について多くの具体例を用いて解説していきます。読み終わった頃には、収益化への道筋が思い浮かぶはずです。
なお、コホート分析についてよく知らないという方は、先にこちらの記事をお読みください。
このブログのライティング者
安藤 弘樹(Koki Ando)
株式会社H&K 代表取締役
株式会社H&K 代表取締役CEO
20代前半から事業を展開し、バイアウト。その後、30年続くイベント会社で最年少でセールス・マーケの責任者。広告代理店で取締役CMOを経験。H&Kを創業。
@KOK1ANDO Youtube
1. 「コホート分析」コホートごとの収益把握と実験
ユーザーを分割するにあたって、サブスクリプション型サービスならプランのグレードによって分けるのが一般的です。ECサイトなら年間購入額で分けられます。ビジネスモデルによっては月次や週次の方が望ましい場合もあります。
収益によるグループ分けのほかにも、居住地や年齢、性別に加え、プロダクトの使い方や、アクセスしている端末、利用時間や訪問回数などが考えられます。
この切り分け方は顧客維持で扱った方法(こちらの記事)と同じように思えるかもしれませんが、ここでは目的が異なり、コホートと収益の相関関係を探して実験のアイディアに活かしていくことになります。
4つの事例などをもとに、ユーザーの分割・分析・施策を見ていくことで、理解を深めていきましょう。
事例:モバイルアプリの「HotelTonight」
HotelTonightは、宿泊直前に値引き価格でホテルを予約できるモバイルアプリです。
このアプリのDXチームは、アプリ利用時のインターネット接続が①WiFiか②携帯回線かでグループ分けして購買行動を分析しました。
一般的に考えるとWiFi回線の方が快適に使えるはずなのですが、予約率は携帯回線からの利用者が2倍という意外な結果が得られました。
この結果から、WiFiだと競合サイトとの比較検討がしやすく、逆に携帯回線だと携帯が重かったり不安定だったりで他のサイトを見ずにHotelTonightで予約をするのではないかと仮説が立てられました。
この洞察をもとに携帯回線からの利用者にリターゲティング広告を打ったところ、その広告を見たユーザーからの予約率が大きく伸びたと言います。
具体例:インターネット通販
購入金額以外に重要なグループ分けの要素として購入点数、平均注文額、購入商品の種類、初回購入の日付、一定期間内の購入回数、そして購入の多い時期などがあります。
仮に90日間に1度だけ購入した顧客が1年以内に500ドル以上注文する割合は55%なのに対して、同じ時期に2回購入した顧客はその割合が95%になると判明したとします。
この場合は初回購入から90日以内にもう一度注文するように促す実験を行うのが良いでしょう。例えば、対象ユーザー限定の大型値引きや特典を30日後にメールで提供して、60日後にフォローアップのメールをいれることなどが考えられます。
具体例:SaaS
SaaS(Software as a Service)は法人顧客が多いので、業種ごとにコホートを分けることが重要です。資金に余裕がある業種ならより高いプランを選び、多くの拡張機能をつける可能性が高くなります。
ソフトウェアの場合、高く売れる特徴もコホートごとによって異なります。
- 大企業
➡既存のCRMシステムとの整合性の高さを求めやすいです。
- 既存システムのないスタートアップ企業
➡整合性よりも機能の充実度を重視することがあります。
- 国際展開しているプロダクトやサービス
➡国ごとに収益化の特徴を見る必要があります。
具体例:広告スペース販売
ユーザー層を細かく切り分けられれば、既にエンゲージメントの高いスペースの収益をさらに伸ばして、低いスペースの効果を高めることで、増収につなげられます。
仮にあるメディア企業において、サイトに2分以上滞在するユーザーの広告クリック率は2分未満のユーザーの3倍になると気付いたとします。
その場合、記事を読み終わった後に表示させるレコメンド記事を改善するというように、滞在時間を伸ばすような実験をするのが良いでしょう。
2. アンケート調査と機能拡充のマーケティング効果|さらなる収益を求めて
ここまで、洞察を得るために様々な切り口でユーザー層の切り分けを行うことについて説明しました。
これは顧客の具体的な欲求に応えるアイディアを生み出すことでもあり、マーケターの方ならそのための「ペルソナ」を設定したことがある人も多いことでしょう。これは各コホートを代表するような仮想の顧客像のことです。
2.1 アンケート調査の必要性
グループ分けによってペルソナが作成できたら、次は各ペルソナがどのような改善を狙っているのかを把握する必要があります。
ここで頼りになるのはアンケート調査です。
収益を伸ばすというミッションの本質は、ユーザーが魅力を感じてニーズが満たされるプロダクトを提供することであり、そのニーズは顧客グループによって異なるからです。
アンケート調査を効果的に利用した事例:「ビットトレント」
アンケート調査を収益の増加に繋げた事例を紹介します。
この図はファイル転送用ソフトウェア「ビットトレント」が新機能の候補を絞るために実施したユーザーアンケートですが、これは非常に優れています。まず、自由記述でないこと、さらにアンケート回答者の一部に新機能を掲載したプロダクトを無償提供すると伝えることで回答率とその信憑性を高めています。
(出典:Hacking Growth グロースハック完全読本 / 日経BP)
ユーザーに評価してもらうことで、新機能をうまく絞り込み、プロダクト部門に開発スケジュールの追加を提案しやすくなります。ビットトレントはアンケートで最も支持を集めた「バッテリー延命機能」を追加して収益を47%も伸ばしました。
2.2 機能拡充の効果
顧客からの収益を伸ばすには、提供する商品や機能を増やすのが効果的です。
Amazonが休むことなく商品カテゴリーを広げ、フェイスブックが積極的に機能を増やし続けていることを見れば納得できることでしょう。
このような拡大戦略を成功させるカギは、顧客が価値を認めて対価を支払うようなベネフィットを提供することです。これは憶測に基づくのではなく、アンケートに基づいて新機能のアイディアを生み出して実験してから、本格展開していくシステムを整える必要があります。ここでもアンケート調査が登場します。
ちなみに、プロダクトの機能が必要以上の増えると、プロダクトを過度に複雑化させてしまう「フィーチャークリープ」の危険性があるので注意は必要です。
3. 最後に
本稿では事例や具体例が非常に多かったと思いますが、その分様々なパターンを知ることができ、収益化に向けたプロセスのイメージが湧いたのではないでしょうか。
本稿によって、皆さんの収益化への取り組みがより活性化することを願っています。