本記事では、近年BtoBマーケティングの領域において注目を集めている「ABM(アカウントベースドマーケティング)」についてわかりやすく解説しています。
ABMの概要や注目されている背景、メリットや効果的な領域、導入ステップ、おすすめツールを具体的な事例を交えながらまとめていますので、効率良くマーケティングを行いたい方はぜひご一読ください。
1. ABMとは?従来のマーケティングとの違い
ABMとは、「アカウント・ベースド・マーケティング(Account Based Marketing)」の略称で、BtoB企業におけるマーケティング手法の一つです。
自社にとって価値のあるアカウント(企業)を選定し、そこに対してアプローチをすることで売り上げの最大化を図ります。
従来のマーケティング手法との違いを明確にするために、「リード・ベースド・マーケティング」や「デマンドジェネレーション」との違いを見ていきましょう。
1-1. ABMとリード・ベースド・マーケティングの違い
ABMとリード・ベースド・マーケティングの大きな違いは、
・対象が「アカウント(企業)」であるか、「リード(個人)」であるか
・スタートが「ターゲットを特定すること」であるか、「認知してもらうこと」であるか
という点です。
ABMでは、どのアカウント(企業)をターゲットにすれば売り上げが最大化するかという視点から、「アカウントの特定」を始めます。具体的なターゲットが決まっているためリソースを集中させやすく、量より質が重視されます。
対してリード・ベースド・マーケティングでは、不特定多数のリードを獲得するために、「認知活動」から始まります。ターゲットに合わせて適切なコンテンツを用いることで自社への興味や関心を高め、購入へと繋げていきます。
1-2. ABMとデマンドジェネレーションの違い
さらに、BtoBマーケティングの手法としてよく知られているものの一つに「デマンドジェネレーション」があります。
デマンドジェネレーションとは、
①見込み顧客の獲得(リードジェネレーション)
②見込み顧客の育成(リードナーチャリング)
③見込み顧客の選別(リードクオリフィケーション)
の3つのプロセスを経て受注へと導くマーケティング手法です。
マーケティング部門が主体となって進められ、その成果として創出された受注確度の高いリード(ホットリード)が営業部門へと引き渡されます。つまり、マーケティング部門と営業部門で見込み顧客の獲得から受注に至るまでのプロセスを役割分担しています。
ABMとデマンドジェネレーションの大きな違いは、対象が「アカウント(企業)」であるか、「選定したセグメントに属する個人」であるかという点です。
ABMとデマンドジェネレーションは目的や対象が異なる手法ですが、対立する概念というわけではありません。デマンドジェネレーションで用いられる顧客管理や育成といった活動は、ABMを実施する上でも必要とされています。
2. ABMが注目されるようになった背景
ABMが注目されるようになった背景は以下の4点が挙げられます。
2-1. テクノロジーの発達
近年では、MA(マーケティング・オートメーション)やCRM(顧客管理システム)、SFA(営業支援システム)といったマーケティングテクノロジーの発達により、時間やコストを削減することができるようになりました。
このようなツールの使用によって、企業はABMを実践しやすくなりました。
2-2. 営業活動の変化
新型コロナウイルスの影響によって営業活動がオンライン化し、ツールを用いて蓄積したデータを有効活用しながら、顧客のLTV(顧客生涯価値)を高めることが重要になりました。
自身の経験に基づいて手当り次第に営業するのではなく、売上が最大化するアカウントを明確にし、戦略的にアプローチをしていくABMの考え方が注目されてきています。
2-3. 取引先との関係性の変化
古くから日本企業では、顧客のためにひたむきに尽くす姿勢が「顧客第一主義」として評価されて来ました。
しかし、近年では顧客の立場でニーズに合ったサービスを提供することが評価されており、取引先との関係を対等なパートナーと位置づける会社が増えてきました。
自社の売上に貢献してもらえる顧客を会社が選ぶ時代になり、特定の企業を選定してアプローチをするABMが注目されるようになりました。
2-4. 事業部制による弊害
日本では事業部制を採用している企業が多く、事業部ごとにマーケティングや営業を行っています。
ビジネスで適切な意思決定をするために、事業部ごとの連携を効率化するMA、CRM、ABMといったツールは注目されています。
3. ABMが効果的な4つの領域
ABMを実施する上で、自社がどういった領域のABMに取り組むべきなのか把握しておくことは重要です。
そこで、ABMが効果を発揮する4つの領域を紹介します。
3-1. 新製品の提供
新製品は既存製品の補完や代替となるものが多いです。既存の顧客に新製品を提供し、購入してもらうことで売り上げ向上が見込めます。
ABMは、すでに取引している企業を中心に展開していくことが得意なので、既存製品の補完や代替となる新製品を販売するには効果的です。
3-2. 新規顧客への展開
現在日本のABMの多くは、新規顧客への展開が中心です。
ABMは企業ごとに顧客情報を把握してアプローチするため、既存顧客の事例を活用できるターゲットを選定し、マーケティング活動を実施することができます。
3-3. 既存製品の強化
ABMでは、購入履歴や好みといった顧客情報をアカウント(企業)単位で把握しているため、既存製品への不満を活用して既存製品を強化・改良することができます。利用状況によってはオプションやサービスのアップセルをすることも可能です。
既存製品の強化によって顧客満足度を高めていくため、「カスタマーサクセス」としても、近年注目されています。一般的には、契約金額が大きい顧客をターゲットに設定することが多いです。
3-4. 既存顧客の別事業部への展開
既存顧客の別事業部への展開も、ABMは効果的です。既存顧客の別事業部への展開は、すでに製品やサービスを導入して成果を挙げている場合に可能です。
ABMでは、顧客情報をアカウント(企業)単位で把握しているため、複数部門を統括する部門や、他部門と繋がっているキーパーソンを見つけて関係を構築し、別事業部と連携を取って展開できるように働きかけることができます。
4. ABMのメリット・デメリット
次に、ABMを導入するメリットとデメリットを解説します。
4-1. ARMのメリット
4-1-1. 効率的なマーケティングによってROIが向上する
ABMでは、あらかじめ自社にとって価値のあるアカウント(企業)にターゲットを絞ります。そのため、リソースを集中させることが可能となり、無駄を減らした効率的なマーケティング活動を実施することができます。
効率的なABMを行うことによって、ROI(投資利益率)の向上にも繋がります。
4-1-2. マーケティングと営業の連携がスムーズになる
ABMでは顧客のニーズが明確になるため、マーケティング部門や営業部門をはじめとして組織全体の方向性を統一することができます。
組織全体で顧客のニーズを共通認識し、「この顧客のニーズに応えるには何をすべきか」という視点で活動することで、他部門との連携がスムーズになります。
4-1-3. 効果測定をしやすい
ABMはターゲットが絞られているため、施策の効果を測定しやすいというメリットもあります。
効果測定をすることで改善点が見つかり、最適化することができます。
4-2. ABMのデメリット
4-2-1. 扱う商材やサービスによっては効果が見込めない
ABMでは特定のアカウントにリソースを集中させ、アップセルやクロスセルをすることで自社の売り上げを最大化させます。
つまり、アップセルやクロスセルが期待できるほどの高単価商材や複数の商材を扱っていないアカウントでは、ABMを導入しても高い効果が見込めません。
4-2-2. ターゲットの企業規模が大きい必要がある
特定のアカウントにリソースを集中させて自社の売り上げを最大化させるということは、1つのアカウントからの売り上げが大きくなければなりません。
したがって、ターゲットとなる企業は中堅〜大規模である必要があります。
4-2-3. マーケティングと営業の連携ができないとうまくいかない
ABMを行う上で、マーケティング部門と営業部門の連携が取れていないと一貫したアプローチをすることができません。
他部門との連携において問題を抱えている場合は、放置せず解決に努める必要があります。
4-2-4. 軌道に乗るまでに時間を要する
ABMは部門単位で行うのではなく他部門と連携をとって組織全体で取り組むため、ある程度の時間を要します。
アップセルやクロスセルをするという点も時間を要する要因の1つとなっています。
5. ABMの具体的な導入ステップ
ここからは、実際にどうやってABMを導入し、運用していくのかについて説明します。
5-1. ABM導入の必要性を判断する
ABMは全ての企業に必要な手法ではありません。
ABMの導入を検討する際には、前の章で取り上げたABMのメリットやデメリット、自社の事業目標をもとに、本当に自社に必要な手法であるのか注意深く検討することが大切です。
5-2. ABMチームを作る
ABMを行う上で一貫したアプローチをすることは重要です。
営業部門とマーケティング部門はもちろんのこと、他部門の関係者を含めた1つのチームを作ることをおすすめします。
5-3. アカウントリストを作る
ここからは、実際に自社にとって価値のあるアカウントを選定していきます。
選定の際には、以下のような点を考慮することがおすすめです。
・売上規模の大きさや市場における影響度
・リピーターになる可能性
・アップセルやクロスセルの可能性
・成約の確率の高さ
後述するCRMなどのツールを活用し、どの企業をターゲットにすべきか総合的に判断します。
5-4. 意思決定者を見つける
選定したアカウント内の意思決定者、あるいはキーパーソンを見つけます。企業規模によっては意思決定者が複数人存在するため、それぞれがどのような部署に存在しているのかを抑える必要があります。
意思決定者やキーパーソンとの接点がない場合は、ダイレクトマーケティングやWebマーケティングなどで接触機会を創出します。
また、後述するSFAなどのツールを活用し、意思決定者の情報を蓄積・分析します。
5-5. コンテンツやメッセージを決める
アプローチする相手を決めたら、どのようなメッセージを送るべきか明確にします。
ABMにおいて効果的なのは、ターゲットが抱えている課題の解決に繋がるような価値あるコンテンツやメッセージを提供することです。
そのため、営業とコミュニケーションをとってコンテンツやメッセージを考えていきます。
5-6. チャネルや施策を決める
意思決定者が属している業界や役割、日常的に使用している媒体なども踏まえた上で、最も高い効果を発揮するチャネルを選定します。
メールや電話、Web広告だけでなく、タクシー広告なども考えられます。
5-7. 施策を実施し、効果測定をする
チャネルや施策を実行し、効果測定をします。
後述するMAツールなどを活用してターゲットのエンゲージメントを測り、以下のような評価基準のもと、効果があったのか分析しましょう。
<評価基準>
・意思決定者やキーパーソンと接触できているか
・商談に至る回数は増えたか
・既存顧客のLTVが高まったか
・新規顧客を獲得できたか
ABMは一回で終わりではありません。効果測定をもとに改善を加え、最適化していきましょう。
6. ABMを行う上でおすすめのツール4選
最後に、ABMを行う上で欠かせない4つのツールを紹介します。
ABMでは顧客データの分析や管理が求められるため、ぜひ参考にしてください。
6-1. MAツール
MA(マーケティング・オートメーション)ツールとは、マーケティング活動において手動で行っている膨大な業務を自動化して、マーケティング施策を一元管理して可視化するツールです。
顧客情報の蓄積だけでなく、Web上の行動把握やスコアリングが可能になります。このスコアリングによって、ターゲットのエンゲージメントを測定することができるため、効果測定の際に活用することができます。
6-2. CRMツール
CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)とは、顧客情報や顧客とのコミュニケーションを一元管理するツールです。
既存顧客とのより良い関係の構築に貢献し、アップセルやクロスセルの際に力を発揮します。
6-3. SFAツール
SFA(セールス・フォース・オートメーション)とは、営業に関する情報を管理して営業活動を可視化・効率化するツールです。
過去の営業活動で接触した人の話した内容や情報を蓄積していてすぐに引き出せるため、ABMにおける意思決定者の特定やアプローチの戦略を立てる際に活用することができます。
6-4. ABMツール
ABMツールとは、ABMの実践に特化して作られたツールです。
企業単位でデータを管理することができ、ターゲットにするアカウントやキーパーソンの選定、エンゲージメントの測定をする際に活用することができます。
7. まとめ
ABMの概要や注目されている背景、メリットや効果的な領域、導入ステップ、おすすめツールをご理解いただけたでしょうか。
ABMはBtoB企業におけるマーケティング手法の一つであり、自社にとって価値のあるアカウントを選定し、そこに対してアプローチをすることで売り上げの最大化を図ります。
しかし、既に述べたように、ABMは全ての企業に適した手法ではありません。
ABMのメリットやデメリット、自社の事業目標をもとに、本当に自社に合った手法であるのか注意深く検討した上で導入しましょう。
株式会社H&Kでは、マーケティングで様々な企業様に携わり、支援させていただいております。
記事を読んでABMだけに関わらず、マーケティングについてもっと知りたくなった方は是非H&Kまでお問い合わせください。