業務改革としてIT化やDX化を重視する企業が増えています。
しかし、実務における ITやDXをうまく利用できていない企業も多くあることは事実です。
経済産業省のDXレポートによると、
・DX化の取り組みを行い、実際に成果が出ている企業の割合は1割に満たない。
・DX化が進まなければ、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じる。
の2点が報告されています。
DX化による成果が出ない理由の1つに、「業務設計」ができていないことが挙げられます。では、業務設計とは一体どういったものなのでしょうか?
今回はIT化・DX化を行う前に、取り組むべき「業務設計」について基礎知識から実践のプロセスを紹介していきます。
1.業務設計について
業務設計とは、組織や企業において行われる業務の実施方法や仕組みをミクロな視点から計画的に設計し、企業の生産性を最大化させるための計画を行うことです。
この設計には、
・業務設計の効率化
・品質向上
・生産性の向上
・リソースの最適化
などが含まれます。
業務設計をしておくことで、業務の迅速な連携が可能となり作業効率が上昇します。また、トラブルが発生した際の原因の早期発見、リカバリーが可能となります。
業務設計は、業務全体として効率性を上昇させるフローを作成することが目的となります。
1-1.業務設計がなぜ重要なのか
業務設計が重要な理由は、企業の「3M(ムリ・ムダ・ムラ)」を排除し、会社全体が生産性の高い業務を行えるようになることで、競合企業に優位性を得られるからです。
3Mの例を挙げると、
ムリ:作業量と人員配置の数が合っていない、納期までの時間の短さ、過剰な品質の追求
ムダ:業務における必要のない作業、設備・ツール活用ができていない
ムラ:作業量・人員配置の数がタームごとに異なる
などがあります。
日本のどの企業においてもこの「3M」が発生しています。例を挙げると、業務が属人化している、エラーやイレギュラーへの対応に時間がかかる、などです。近年の賃上げの機運の高さや物価高の影響を考慮すると、一気通貫した業務設計を行い効率化を図る必要があります。
1-2.業務設計で意識する点
業務設計においては「QCD」を意識することが重要となります。「QCD」とは、
- Q:品質(Quality)
- C:費用(Cost)
- D:納期(Delivery)
の頭文字を撮ったものです。業務の経営や生産性の管理の指標として活用されます。「QCD」の考え方で注意すべき点はこの3つが互いにトレードオフの関係にあるということです。トレードオフというのは1つの要素を改善すると他の要素に改善の余地が生まれる状況を表します。
設計の対象となっている業務において、「QCD」のうちのどれを重視することで業務が効率化されるのかを、「業務設計」を通じて明らかにする必要があります。
2.業務の設計方法
次に、業務設計の取り組み方についてご紹介します。大まかな流れとしては、以下の通りです。
2-1.現場のリアルなヒアリング・業務の現状分析(ASIS)
ヒアリングする際に聞き取る必要のあることは、
・現状の業務フロー
・課題
の2点です。先に業務フローを聞いて理解する必要があります。
1. 現状の業務フロー
マネージャーなど管理職に話を聞いて現状の業務フローを聞き、それをフロー図にします。これがASIS(現在の状態)となります。
2. 課題
現状の課題を管理職、現場のメンバーにも聞きます。
2-a. 管理職
管理職からは現状の課題が見えないため、組織全体の課題を聞く必要があります。管理職とはミーティングで会話しながら課題を洗い出していきます。その際にヒアリングを行う側は業務フローを理解した上で課題になりそうな点をまとめ、客観的な視点から意見を伝える必要があります。
2-b. 現場メンバー
現場メンバーからは業務における3Mが発生しやすい作業(面倒である、ミスが増えるなど)に関する課題を聞きます。方法としてはアンケートをとるか、現場のメンバーの中でも優秀な人にヒアリングを行う方法があります。前者の手段をとると、回答の回収率が悪くなったり、回答の精査が大変になったりします。そのため、後者の手段の方がヒアリングとして効率的です。
洗い出す課題としては以下の3つが挙げられます。
・やりたいけどできていない業務
・できてはいるが無駄に時間がかかっている業務
・実施する人や時期など状況によってばらつきがある業務
ヒアリングを行う際に重要なのが、匿名性を担保しつつ、業務設計の担当者まで直接ヒアリングの内容が届くことです。具体的には、
・匿名によるアンケートの実施
・ヒアリングの内容を口外しないこと
・業務設計の担当者宛に直接意見が届くようなシステムの開発
などが挙げられます。
2-2.課題点のリストアップ・方針の決定
1つ前のステップでさまざまに出てきた課題点を整理します。これらの課題点について、優先順位をつける必要があります。
優先順位を付けるときには、先述した「QCD」の観点から課題の本質を見極めながら、「高、中、低」のようにカテゴリを分けていきます。その際の判断の軸は以下のようなものが挙げられます。
・解決にかかるコスト(工数・費用)
・解決による影響度
・優先度(感情のような定性的なものでも良い)
これらを考慮した上で決めていきます。判断例としては以下のようなものになります。
優先順位がついたら、それを元に設計を行いつつ、
・業務構築のスケジュール
・業務設計を進めるための組織作成
・外注先の用意
なども行う準備を策定していきます。全てを1回の業務設計で実施する必要はないため、利用できるコストと相談して決めていくことが重要です。
2-3.業務設計の構築
下記の手順で実施していきます。
① 1つの課題に対する解決方法を設計
② その解決方法が実現可能か検討
③ 可能であれば上記の解決方法を元に、前述のASIS(現在の状態)の業務フローを改修する
④ ①〜③を繰り返してTOBE(理想の状態)のフロー図を作成する。
⑤ フロー図内容を実現する準備(システムであれば裏側で構築だけする、社内ルールであれば現場に伝えるアウトプット準備など)
⑥ 準備したものを反映する(システムであれば構築したものを反映、社内ルールなどは現場に伝える)
⑦ エラーなど不測の事態に対する対応・修正
(④で作成したTOBE(理想の状態)のフロー図は設計図として次回の改修で活用できるので大事に保存しておく)
2-4.業務設計の実行・フィードバック
2-3で作成した業務設計に基づき実行していきます。実行する際には以下で紹介するフレームワークを用いて、業務設計の導入前と後で業務での改善を把握できるようなシステムを整える必要があります。
業務設計ではフィードバックが大切です。業務において再び課題点が見つかった場合には、必要に応じて2.1.や2.2.のステップに戻ります。
2-5.業務の設計方法に関する注意点
業務設計に慣れていない企業でなければ、1回の業務設計の取り組みにより改善がみられないことが多いです。業務の課題点も他者とは異なるため、他の企業の業務フローを参考にしても、うまく行かないこともあります。繰り返し業務設計を行うことで最適な業務フローを構築することができます。
3.業務設計での課題発見に役立つフレームワークの紹介
業務設計をする際、フレームワークを活用することで効率的に課題点を洗い出し、整理することができます。以下では、代表的なフレームワークをご紹介します。
・BPMN
・PDCAサイクル
・ロジックツリー
・ECRS
・KPT
・バリューチェーン分析
3-1.BPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法 )
BPMNは、以下の4つの記号を用いて業務フローを作成していきます。
これらの記号を用いることで、複雑な業務プロセスをモデルとして表すことができます。こうすることで、どの従業員が見ても業務の理解がしやすくなります。業務の属人化を防ぐことができるのです。
3-2.PDCAサイクル
PDCAサイクルとは、
・Plan(計画する)
・Do(実行する)
・Check(評価する)
・Action(改善する)
の頭文字を取ったものです。業務設計や業務設計の確認の際に利用します。
PDCAサイクルの各プロセスについて
・Plan(計画する)
目標や目的を設定し、それらを達成するための計画を行います。その際、なぜそのような目標・目的を設定したのか、なぜそのような実行計画を立てるのかを常に意識しながら計画することが必要です。現状の業務における課題点の修正という軸を保ち続けるためです。
・Do(実行する)
計画したものを実行に移します。
・Check(評価する)
実行した内容を検証していきます。計画通りに実行できたものとできなかったものに分けて、後者に関してはその原因の分析を入念に行うことが必要です。また、実行した計画の課題点を洗い出す際には、定量的なデータだけでなく、定性情報が活用されることもあります。定性情報とは数値化できない情報を指します。これは、行動観察などによるエスノグラフィックアプローチのような手法を用いて集めることができます。
エスノグラフィックアプローチとは、消費者自身が明確に認識してはいないものの潜在的に認識している言語化されない需要を見出す、顧客洞察の手法の1つです。
エスノグラフィックアプローチで実際に活用しやすい代表的な手段として、以下のようなものが挙げられます。
1. 行動観察
マーケティングの目標の行動を観察し、自然発生する需要を分析する手法です。
2. フォトエッセー
マーケティングの目標のありのままの姿や言葉などから需要を分析する手法です。
3. ソーシャルリスニング
ネットやブログなどのソーシャルメディアで行われるやり取りから、マーケティングの目標の自然な会話を収集・分析し、ビジネスプロセスで活用することです。
4. MROC(エムロック)
マーケティングの目標同士のコミュニケーションからこれまで発見できなかった新たな需要を見つけ出し、分析する手法です。
・Action(改善する)
「Check」で検証した内容を踏まえて、どのような対策を行い改善していくかを検討します。表出した課題点だけでなくその要因も改善することが必要です。
3-3.ロジックツリー
ロジックツリーとは、様々な課題を木の枝のように分解して、課題点を洗い出すフレームワークです。
シンプルなフレームワークですが、適切に利用しないと業務設計において効果が表れません。漏れなくダブりなくを意識し、末端まで具体的かつ正確に分析する必要があります。
3-4.ECRS
ECRSとは、
・Eliminate(排除する)
・Combine(結合する)
・Rearrangement(交換する)
・Simplify(簡素化する)
の頭文字を取ったものです。
ECRSの順番で業務改善を進めることで、「ムダ」な業務や物、ルールをなくし、業務の形をブラッシュアップすることで、新たなビジネスを行う機会や資金を得ることができます。
3-5.KPT
KPTとは、
・Keep(続けるべきこと)
・Problem(やめるべきこと)
・Try(新しく挑戦すること
の頭文字を取ったものです。これらの3つの要素に分けて現状の分析を行うためのフレームワークです。現状の課題点を分析する際や確認の際に活用します。
3-6.バリューチェーン分析
バリューチェーン分析とは、マーケティング手法の1つです。商品の開発・生産から市場での取引・販売までの流れを、企業の提供する「価値の連鎖(バリューチェーン)」として考えて分析していきます。
このフレームワークを用いることによって、お客様業務内容における自社の強みと課題点を可視化することができます。これにより他社との差別化ができ、競争において優位に立つことができます。
4.実際の業務設計の例
業務設計に関する基礎的な知識やワークフローについて紹介してきました。ここでは実際の業務設計の例についてご紹介します。
4-1.BPMNを利用した例
見積作成プロセスの一例
4-2.PDCAサイクルを利用した例
今回は、BPMNとPDCAサイクルを利用した業務設計の例をそれぞれ示しました。これらのプロセスを繰り返すことにより、最適な業務設計を行っていくことが重要です。
ここで、新たに例外処理について説明します。例外処理とは、業務設計で想定していた方法では処理しきれない業務が発生したときに進行しているプロセスを終了させてその原因を分析することです。既存の方法では処理できない業務を無理に解決しようとすると、「QCD(品質・費用・納期)」が低下する可能性があります。新たに業務設計を行うことで、QCDを高い水準に保つことができるだけでなく、今後同じような事態に陥ったとしても対応できるようになります。
また、業務設計を行う際に、部署横断を取り入れることで効率的な業務の遂行が可能になります。部署横断とは様々な部門の異なるスキルを持つメンバーを集めて業務を行うことです。部署横断の業務設計を行う際には以下の4つに着目します。
・多様性の重視
・目標の関連性への理解
・専門家の起用
・オートメーションの起用
部署横断による業務を行うことで、多角的な視点からの意見交換やイノベーションが生まれやすくなります。
まとめ.
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
業務設計を行なっていく際には、まず課題点を見つけ出し整理したのちに、それらを改善するフローを設計して実行していきます。IT化・DX化が進む中で、この業務設計の重要性が増してきています。早い段階から業務設計を行い、競合企業に優位性を得られるようにしていきましょう。
業務設計に関してご相談がある担当者様はぜひ、当社H&Kまでご相談ください。