前項ではバイラルループの実態・定義・設計とそれにまつわる誤解についての解説を行いました。今回は、プロダクト・インセンティブ・フィット(PIF)という概念とこの概念を最大限達成するために必要な要素について解説していきます。
本記事を読むことで、バイラルループとインセンティブがプロダクト体験に大きな影響力を与えることが理解できます。適切なバイラルループを構築するためのベストプラクティスについても紹介するので、自社のサービス・プロダクトをもう一段階レベルアップさせたい方は必読です!
1.プロダクト体験を良くするとは?
バイラルループは他のマーケティングチャネルとは異なり、SNSやメールなどを通じて短時間で情報が伝わることを意味し、紹介プログラムなどの手法の根底にある考えです。ユーザーが積極的に他のユーザーを招待してくれる流れがあれば、サービス・プロダクトの知名度は上がり、ユーザーデータが多く集まります。そのデータを用いてプロダクト体験向上に向けた施策を打ち出せます。
ここでは、バイラルループのネットワーク効果とプロダクトのインセンティブがプロダクト体験にどう影響するかを見ていきます。
1-1.プロダクトのマーケティングにおけるネットワーク効果
ユーザーが増えれば売り手にとっての潜在顧客が増え、買い手にとっては選択肢が広がるという点でネットワーク効果が期待できます。
しかし一方で効果のないプロダクトも存在します。スーパーマーケットのモバイルアプリがそのひとつです。友達に紹介しても自分のプロダクト体験に変化はありません。これは特例ですが、多くの場合はある程度のネットワーク効果は見込めるのです。直感的にはわからないかもしれませんが、隠れたネットワーク効果を活用していくのが最善の手です。
ネットワーク効果を活用してバイラルに成長するには、使われ方の調査を行いバイラルループの手掛かりを探すことが必要不可欠です。このネットワーク効果を上手く利用した例としてオンラインチケットサービスの「イベントブライト」が挙げられます。このサービスはイベント宣伝のハブであり、サイトで販売されるチケット代金の一部を手数料として受け取っています。
イベントブライトは、チケット購入者がイベントの参加を友達にシェアしたくなるソーシャルなバイラルループを仕組みました。イベント情報のシェアによってユーザーは増え、チケットの販売数は増加します。さらに友達と一緒にイベントに参加できるという仕組みによってユーザーのプロダクト体験の高まりも実現しました。
つまり、バイラルループというネットワーク効果があることでサービス・プロダクトの成長が加速されたのです。イベントブライトだけでなく、フェイスブックやリンクトインのようにネットワーク効果があるプロダクトはバイラルに成長するうえで圧倒的に有利です。
1-2.プロダクトのマーケティングにおけるインセンティブの重要性
プロダクトをシェアする動機づけがユーザーのプロダクト体験に備わっていないのならば、企業は自らインセンティブを出す必要があります。当然ながら、プロダクトのコアバリューに適したインセンティブにすることが最も重要なことです。これを「プロダクト・インセンティブ・フィット」と呼びます。
ドロップボックスの成功事例の1つである紹介プログラムはこのインセンティブが重要な要因でした。ドロップボックスはストレージ容量の無料追加をインセンティブとしましたが、このプロダクトのコアバリューはファイルの保存と共有にあるので、コアバリューに沿ったインセンティブとなっています。
金銭をインセンティブにするのも効果的ではありますが、代償として天秤にかけられやすいことが挙げられます。その点ドロップボックスの例では、無料でもらえる容量の金銭的価値をユーザーが計算するのは難しく、実は提供する側のコストは微々たるものなのです。
もし金銭のインセンティブを使いたいのであれば、最大限活用するにはプロダクトのコアバリューと結びつけることが重要です。貸し部屋を提供するエアアンドビーは、紹介した側とされた側の両方に旅行のクーポンを付与しています。ここで重要なのは金額ではなく、コアバリューに即したメッセージを添えることです。エアアンドビーの例では「暮らすように旅をする体験」を分かち合うよう勧める言葉を使っています。
2.ユーザー目線のバイラルループでプロダクト体験を良くする

2-1.プロダクトを紹介する側の目線
紹介数を増やしたいという一心で紹介を促しすぎて不快に思われるような状態は避けなければなりません。「押しつけ」ではなく「働きかけ」にとどめるには、できるだけユーザー体験と招待の境界線をなくすことが望ましいでしょう。意識すべきなのは、プロダクトを実際に使うのはユーザーであり、企業側でないということです。ユーザー目線で仕組みを構築しなければいけません。
実際のところ、紹介プログラムはプロダクトにあとからつけられる場合が多いです。その場合、新規ユーザー体験やホーム画面のように閲覧数が多いところで悪目立ちしないようにするのが良いでしょう。逆に目立たなすぎても閲覧数が伸びず、バイラルループが回るためのリーチには至りません。
クチコミで成長した企業はバイラル化の仕掛けを目立たせつつ、ユーザーが直感的に使いたくなるような工夫をしています。
-
-
2-2.プロダクトを紹介される側の目線
-
招待を受け取った側の体験をないがしろにしないように努めるのも大事な要素の1つです。サービスの内容も登録する利点も説明しないままにいきなりアカウント作成を勧めるような仕組みは招待を受け取る人の視点を考えていないでしょう。
紹介される側の体験に気を配っている良い例がエアアンドビーです。紹介メールには紹介者の情報とインセンティブの説明が明記されています。受け取る側も承認しやすく、不信感を抱くことはないのでさらに他の人を紹介する気持ちも湧く可能性も高まります。
このように、実際にサービス・プロダクトを利用する顧客の視点から、どのようなバイラルループやインセンティブがあれば利用しやすいかを考えることは大変重要です。
3.さいごに
-
余談ですが、ドロップボックスは招待メッセージでファイル共有と無料ストレージの両方を推したところ、コンバージョン率が下がってしまいました。無料ストレージには触れず、ファイル共有のサービスであるという説明だけを行ったところコンバージョン率が増加しました。
このように、優れた施策の多くは予期せぬ発見から生まれることが多くあります。長い道のりかもしれませんが、絶えず試行錯誤を繰り返せば、いずれゴールにたどり着くのがマーケティングの面白い点ではないでしょうか。バイラルループの設定、インセンティブの候補策定や実験に関しては、ノウハウを持つ他社と業務提携するのも一つの手です。お気軽にご相談ください!