前項のマストハブ・サーベイ、顧客維持率とは?-プロダクト開発過程の調査-では、プロダクトがリリースされるための最低基準を満たしているかを判断する方法と、プロダクトがどれだけマストハブに近づいているかを確認する指標について解説しました。
今回は、サーベイや維持率の測定を実施した後の段階であるプロダクト分析を実例とともに解説していきます。深いプロダクト分析を行うことによって、成長を阻害する因子を見つけ出し、軌道修正を図ることができるようになります。本記事を読むことで、サービス・プロダクトを分析する意義を知り、代表歴な事例をもとに企業ごとの分析に移ることができます。グロースハックにもつながる内容ですので、プロダクト分析に直接かかわらない方も必読です!
このブログのライティング者

安藤 弘樹(Koki Ando)
株式会社H&K 代表取締役
株式会社H&K 代表取締役CEO
20代前半から事業を展開し、バイアウト。その後、30年続くイベント会社で最年少でセールス・マーケの責任者。広告代理店で取締役CMOを経験。H&Kを創業。
@KOK1ANDO Youtube
<目次>
1. プロダクト分析への移行
マストハブ・サーベイによる調査と顧客維持率の測定の結果、相当の顧客がアハ・モーメントを体験していることが確信できたら、成長を目指して迅速な実験に移ることになります。
プロダクトが基準を満たしていない場合には、マストハブサーベイ以上に突っ込んだユーザー調査を行う必要があります。この場合では、プロダクトの成長を阻止している要因を理解することが重要です。これを怠ってしまうと全く効果のない機能を実装してしまうなど、貴重な経営資源の使い道を誤る可能性が高くなります。
プロダクトを改善するのに機能を付け加えていくことを続けると、フューチャークリープの危険性があります。フューチャークリープとはコアバリューの創出につながらない機能を追加していくことでプロダクトが複雑で使いづらくなってしまう現象のことです。
フューチャークリープは、プロダクトを開発する際に大きな障害となります。改修コストの肥大化とユーザビリティの低下が生じてしまいます。実はこの現象に陥ってしまうプロダクトは少なくありません。これを防ぐ重要なポイントとして「北極星指標」を適切に定めることなのですが、その指標については別記事で詳しく解説していきます。ここで覚えておくべきことは、多くの場合、改善は足し算ではなく引き算から生まれるということです。
1.1 プロダクトの深い分析
アハ・モーメントがなぜ実現せず、どうすれば実現できるのかを解き明かすには、推測ではなく分析することが必要です。そのカギとなる手法は次の3つです。
・追加のユーザー調査
・プロダクトの文言の変更についての効果的な実験
・ユーザーデータの徹底的な分析
これらを同時並行で行っていくことが望ましいです。DXチームのメンバーは専門に応じてこれらの役割を分担していくことになります。デザイナーやマーケティングスペシャリストは聞き取り調査の実施、エンジニアはプロダクトの変更や実験の準備、データアナリストはユーザー行動の深堀りを行っていきます。
2. プロダクト分析にあたってのオフラインの重要性
「顧客が企業とプロダクトに本当は何を求めているのかを知るには、どんな企業の社員もオフィスを出なければならない。」
これは顧客開発の第一人者スティーヴ・ブランクの言葉です。実際にはインターネットを通じて顧客に聞き取り調査をする場合も多いのですが、どちらにせよ、耳を傾け、観察することが重要です。
そして同じく重要なのは「論より証拠」であり、プロダクトの試作品を使ってもらうのが一番良いでしょう。機能が複雑で使いづらい、そもそも需要がないというような開発中に考えなかった問題に気づかされます。
2.1 実際の事例:Tinder
リアルの世界に出てターゲットユーザーのネットワークを巧みに利用した事業成長のひとつの例として、「Tinder」が挙げられます。競合大手がひしめく業界にもかかわらず、わずか30ヶ月で月間アクティブユーザーが2400万人に達成した出会い系アプリです。
Tinderが初期ユーザーを獲得するにあたり、ユーザーの興味が「ごく近くに住んでいる人を探すこと」に絞られるという課題がありました。ユーザーが地元に密着しているならば、成長戦略の第一歩も地元密着型にするべきだと考え、大学の学生交流会にフォーカスしました。メンバー同士のつながりが強固でクチコミが急速に普及しやすいこと、所属している社会的インフルエンサーが調査の対象として適していると考えたからです。
それに加えて「良い相手を見つけるならTinder」というブランドイメージの確立につながるアーリーアダプターとして魅力的であることも理由でした。創業メンバーみずからが大学のキャンパスに赴いて女子友愛会にプレゼンを行い、その場でアプリについてのフィードバックを収集しました。その足で男子友愛会にも行き、登録したばかりの女子学生のリストを見せたところ難なく登録者が集まりました。地域の恋人候補者はみるみる増えていきました。
この初期段階で見つけた市場から、自然発生的に顧客基盤が拡大していったと言います。広告会社や名簿業者に大金を払うことなく顧客のコアグループに注力したおかげで、プロダクトを手際よく改善することでユーザーの評価を高めることができました。核となる初期の市場を深く理解するためにオフィスを出たおかげでした。
2.2 実際の事例:Paypal と ebay
アハ・モーメントの実現への手掛かりとなるコミュニティは、デジタル空間でも探すことができます。有名な事例としてPaypalとebayがこのケースです。
Paypalは、サービスを開始して間もなく、ebayでの決済手段として定期的に利用しているユーザーが一定数いることに気が付きました。そこで具体的な使われ方とユーザー層の広げ方を知る手がかりをebayのコミュニティで探りました。調査してみると当時、ebayはクレジットカード決済ができなかったので、小切手や為替を待たずに売上金を受け取れるPaypalを決済手段にしている場合が多いことを知りました。
さらにチームはebayでの使われ方を調査し、出品ページでPaypalがどのように説明・掲載されているかを確かめました。さらに共有されているフィードバックや洞察からユーザーのニーズを把握していきました。
その結果、「購入者にサービスの登録を促す一文」と「Paypalのロゴ」をすべてのオークションに追加する「オートリンク」というツールが開発されました。ebayにおいてPaypalを利用する出品数が3倍になり、急成長が実現されました。
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3. プロダクト分析のプラットフォーム
現在、プロダクトのコアオーディエンスを見つけられるオンラインプラットフォームは多数存在します。
大手ソーシャルネットワークサービス、アプリストア、ミートアップを通じてつくられた様々なユーザーグループなどです。これらのプラットフォームを利用することで、アーリーアダプター候補を見つけ、プロダクトの問題解決の手掛かりを得て、さらに彼らのフィードバックからアハ・モーメントの達成度を確認することができます。
アンケートや聞き取り調査には非常に時間がかかるというイメージがあるかもしれませんが、回答者が少なくても明確な洞察を得られることは多くあります。また、込み入った質問をしなくとも基本的な質問をいくつかすればいいだけの場合もあります。
3.1 ツイッターの例
例えばツイッターはしばらく利用を休止した後でまた使い始めたユーザーに4つだけ質問をしています。
・最初に登録した理由は何か
・何が気に入らなくてつかわなくなったのか
・もう一度使ってみようと思ったきっかけは何か
・今回は何が気に入っているのか
という4つです。
3.2 ログミーインの例
また、別の事例としてログミーインは一度サービスに登録したのに解約してしまったユーザーからのフィードバックを得るために、登録時のメールアドレス宛に
「なぜログミーインを使わないのか」
という一問だけの調査を行っています。
フォーカスグループとなると時間と費用が掛かり、効果が薄いというようなことも多くありますが、ツイッターやログミーインのような調査なら迅速かつ簡単に、専門知識がなくとも実施することができます。
アンケートで200程度の回答数が集まればデータ分析から見えてきたユーザー行動の背景を探り、成長機会はどこにあるのか、どこから実験していけばよいのかについての洞察が得られるのです。
さいごに
本記事では、サーベイや維持率の測定後に結果によって取るべき行動を解説しました。
プロダクトが基準を満たしていれば、すぐに実験的な行動に移ってもよいですが、基準を満たしていない場合は、さらに深い分析を行う必要があることが分かりましたでしょうか。
場合によっては、オフィスを出て、オフラインで情報収集や分析対象へのアプローチをする必要があります。また、情報収集から実際に分析を行うところまでを外部に委託するという手も考えられます。さらに詳しい情報を知りたい、外部の委託を考えているという方はまず資料のダウンロードをおすすめします!