今回は「フリクションを解消する新規ユーザーの最適化とポジティブフリクション」について解説します。
突然ですが、読んでいる記事の途中に広告が差し込まれたり、コーヒーメーカーの自動抽出時間の設定が複雑すぎる、というようなちょっとした苛立ちを経験をしたことはありませんか?
このような目的の行動を妨げるものをUXデザインでは「フリクション」と呼ばれています。
今回の記事では、ユーザー活性化の際にありがちな「フリクション」に関する問題とその回避方法について詳しく紹介していきます。
1.ユーザー活性化を阻害するフリクションとは
1-1.フリクションの盲点
冒頭でも書いた通り、フリクションとは目的の行動を妨げるものです。
一見するとフリクションなんて探しだしてすぐ解消すればいいと思われがちです。
しかしフリクションで困ったこととして、使う側だとフリクションによく気が付くのに、開発・販売する立場だとフリクションの芽を見落としてしまうことが多いのです。
これはプロダクトの仕組みをよく知っているので阻害要因を認識しづらくなっていることが原因だと考えられます。
オンラインプロダクトについてはユーザー体験からフリクションをなくすことが重要だという考え方が広まっていています。それにもかかわらず、注文前にアカウントの作成を求められたり、まだ使っていないアプリの評価を頼まれたりと、そこかしこにフリクションは潜んでいます。その些細なイライラに遭遇したとき、それを乗り越える価値が見いだせないとユーザーは永遠に離脱してしまうことも考えられます。
1-2.フリクションに関する方程式
フリクション低減の重要性を認識するために考えられた方程式が以下の式です。
欲求-フリクション = コンバージョン率 |
この式から分かることは、プロダクトを欲しい気持ちが強いほどユーザーは大きなフリクションでも許容しようするということです。
新しく未熟なプロダクトにとってアーリーアダプターがありがたい存在なのは、彼らは重大な欠陥があってもお金を出して使ってくれることが多いからです。ただ、そのような存在は少数です。
活性化を改善するためにはユーザーの欲求を高めるか、フリクションを減らすことが必要です。しかし、プロダクトの魅力を高めることは難しいので、手を付けやすいフリクションの削減に注力することになるでしょう。
1-3.フリクションの最大の発生源
カスタマージャーニーの出発点である新規ユーザー体験、NUX(新規ユーザー体験)もフリクションの最大の発生源になりえます。
新規ユーザー体験の設計と最適化における重要なルールはNUXを一度しかないプロダクトとの出会いとして扱うことです。NUX独自の体験を提供してユーザーにプロダクトの価値と魅力を伝えます。
NUXを独立させるには一連のアプリ画面やWebページを別個に作ります。これは既存ユーザーの体験に影響を出さずに実験できるという利点もあります。
1-4.NUX(新規ユーザー体験)のランディングページで提示すべき事項
もう一つ重要なのはNUXの最初のランディングページで提示すべき事項です。提示すべき事項は三つあります。
1-4-1.関連性
そのページがどれだけ訪問者の意図と欲求にマッチしているか、訪問者の目的を果たせるか、を意味します。
1-4-2.製品価値
これは何の役に立つのかを簡潔に伝える必要があります。
1-4-3.明快なCTA
関製品価値としてはCTAは訪問者を次の行動に駆り立てるスイッチです。
どれもあって当然と感じるかもしれませんが、実際にはすべてそろっているランディングページは意外と少ないのです。
1-5.新規ユーザー向けのページの最適化
新規ユーザー向けのページを最適化するには言葉の実験が不可欠です。
メッセージの内容はもちろん、デザインについても実験しましょう。あらゆる要素から問題を洗い出す必要があるのです。
それを踏まえたうえで幅広い業種・プロダクトで効果が証明されている強力なフリクション削減手法を二つ紹介しましょう。
1-5-1.シングルサインオン
シングルサインオンとはユーザーがすでに持っているフェイスブックやGoogleなどのアカウントで登録できる機能です。
登録プロセスのフリクションを減らす画期的な方法です。ワンクリックで新規登録ができればコンバージョン率が高まる可能性があります。シングルサインオンはBtoCサービスで使われることが多いのですが、BtoBのプロダクトでも利用価値は高いと言えます。
ただし、あるプロダクトでうまくいく方法が別のプロダクトで機能しないことも十分考えられます。シングルサインオンをなくしたことでコンバージョン率が増加したような例もあるのです。施策を行う前にはやはり実験が必要不可欠です。
1-5-2.ファネルひっくり返す
本来ファネルとは、顧客が購入のステップを順に踏んでいき、最後にアハモーメントを感じさせるものです。
ファネルをひっくり返すとは、このファネルのステップを逆にして登録する前にプロダクトの利点を体験してもらうことです。ファネル顧客のアハモーメントを先に感じさせます。
この手法はWeb製品にとどまらず、例えば無料お試しのようなプログラムは同様の効果が得られるでしょう。ファネルの重要部分を逆の順番にすることでフリクションを抑えているのです。
2.フリクションを解消した例:Airbnb(エアビーアンドビー)
ここではユーザーの活性化の段階に進ませつつも、離脱するほどの手間はかけさせないという絶妙なバランスが必要になります。
これを実現したエアビーアンドビーの実例を見ていきます。
2-1.データ分析で見えた課題
DXチームがデータを分析したところ、ほとんどのサイト訪問者は部屋を予約する直前までユーザー登録していないことがわかりました。
登録のタイミングはもっと早いほうが良いでしょう。なんとなく部屋を見て回っている段階から基本情報と興味ありそうな旅行先や部屋がわかれば、実際に予約を検討するつもりで検索したときにより適切な検索結果を表示することができます。そうすれば、予約率もエアアンドビーへの満足度や評価も上がると考えました。
2-2.分析結果からの実験その1
そこでチームが最初に試したのは、画面最下部に目立つ欄を設けてユーザー登録の利点を書くという簡単な実験でした。訪問者がそのCTAを無視して次のページに行くとまた別の勧誘分が表示されるようなものでした。
実験結果は興味深く、登録者は上がったのですが予約率は下がったのです。勧誘のせいでフリクションが生じ、検索から予約に至らない訪問者がいたようです。
この実験自体は失敗でしましたが、登録ユーザーの増加によって紹介数が増えたり、ユーザーの希望する部屋がわかったりと新たな洞察や収穫を得ることができました。
2-3.分析結果からの実験その2
さらに実験を繰り返します。登録と予約数をどちらも増加させようとフリクションの低減策を実験することになりました。CTAの最適化を目指し、デザインや表示頻度などを試行錯誤していきました。
すると5ページに1回の割合に表示頻度を減らしたところ、予約率へのマイナスの影響は見られなくなりました。逆にCTAにユーザーからの推薦の言葉を追加したところ、登録率は低下したのでした。
プロダクトにどのようなフリクションが存在するのか、そしてそれが活性化にどう影響しているのかを知るにはこれもまた実験あるのみです。エアアンドビーはNUXの最適化のために数多くの実験を行いました。登録バーの色から登録フォームのボタンの形まであらゆる要素が実験の対象となりました。そして最後には重要指標が総合的に高まるものを見つけたのです。
3.ポジティブフリクションとはなにか?詳しく解説!
フリクションはこれまでユーザーの体験を妨げるものとして説明しました。
しかしフリクションにも肯定的な捉え方をするものもあります。それがポジティブフリクションです。
ポジティブフリクションとは、訪問者がプロダクトの価値を理解し、アハモーメントに到達する可能性を高めるためにあえて踏ませる簡単なステップを指します。
これをうまく実現させているのがゲーム業界です。ゲームのアハモーメントは遊ぶ楽しさにありますが、新しいプレイヤーを増やすにはルールを伝える必要があります。ルールと戦略は複雑なものが多いので、開発者は心理学の知見も借りながら巧みにゲームの世界へといざなっているのです。
そのひとつとしてたとえ小さくても行動をいったん起こせば不快でない限りやり遂げようとする、というものがあります。これは心理学者のロバート・チャルディールによる書籍「影響力の武器」で提唱されています。ゲーム開発者はこれを応用して遊び方をあれこれ説明せずに簡単で手軽なプレーから始めさせてコミットメントを生み出すことでユーザーを引き込んでいます。
3-2.心理学の知見を応用したポジティブフリクション
彼らが利用している心理学の知見はまだまだあるのですが、特に重要な二つの手法を紹介します。行動を引き起こすためによく知られた条件付けの方法です。
3-2-1.フロー状態に特有の強い満足感をあおる
「フロー」とは、取り組んでいる活動に適度な難しさを感じると没入状態に入って行くことを示しています。
重要なのは行き詰まるほど難しくなく、退屈するほど簡単ではないことです。
絵を描いたり、論文を執筆したり、アプリをプログラミングしたりしていて、時間が過ぎるのを忘れてしまうような経験をしたことがある方もいることでしょう。ゲーム開発者はこれらの知見をうまく組み合わせて抵抗なく遊び始められるNUXを作り上げています。
3-2-2.見返りを与える
さいしょはすぐにクリアできるような場面をつくり、クリアのたびに見返りを与えます。同時にゲームのルールと雰囲気に慣れさせていきます。そして徐々に難易度と見返りのレベルをあげていきますが、その上げ幅は徹底的に実験されていて絶妙です。
そうしてユーザーは夢中になってフロー状態に入り込んできます。
この手法はゲーム以外にも応用でき、様々なオンライン製品で活性化率の向上に使われています。例えばフェイスブックのプロフィールを仕上げるのに時間をかけたようなことがある人はそのプロセスにフローを生む何かがあるとわかるのではないでしょうか。フェイスブックのコアバリューは、友達を見つけることにあるので、そのために必要なプロフィール作成に精を出してしまうことです。
3-3.ポジティブフリクションから生まれるストアバリュー
ポジティブフリクションにより、プロダクトに蓄積する情報がふえるほどユーザーはプロダクトへのコミットメントを強めます。これにより、ストアバリューというものが発生します。ストアバリューとは、プロダクトに情報をいれると所有の感覚が生じ、価値を維持するために情報を追加したくなることを指します。
ユーザーに情報を要求するとフリクションが発生する恐れがありますが、見返りを与えながら徐々に行動のレベルを上げていく適切なやり方ならば、活性化と成長を促すことができます。
4.最後に
今回は「フリクションを解消した新規ユーザーの最適化とポジティブフリクション」について詳しく解説していきました。
NUXにはフリクションも数多く潜んでいますが、チャンスも豊富に眠っています。
ここからさらに発展して、ユーザーがプロダクトに向けている意識を十分に活用するために編み出された考えがあります。もし詳しく知りたい方がいましたら、下の記事で解説していますので是非読んでみてください。
「新規ユーザー体験を活性化させる新しい発想「ラーンフロー」について徹底解説!」
(https://app.hubspot.com/blog/8556706/edit-beta/69380520205/content)