基幹業務システムを整備するにあたってCRMとERPとで機能的に重複しているように感じている方は多いのではないでしょうか?確かに機能的に重複しているように感じる部分はありますが、基本的にCRMとERPはシステムとしての役割が違います。その違いを理解しながら、自社に最適なシステムを設計することが重要になります。
本記事ではCRMとERPの違いを理解しつつも、連携させることで得られるメリットなども解説します。
1.CRMとは
1.1.CRMの概要
CRMとはCustomer Relationship Management(カスタマーリレーションシップ マネジメント)の略で、一般的に日本語では「顧客管理システム」と呼ばれているシステム群の総称を表しています。
人によって若干認識が異なる所があるのですが、顧客分析を主眼に置いている方と、顧客とのコミュニケーション配信管理に主観を置いている方とで分か、その要因は「リレーションシップ」の方を重視するか、「マネジメント」を重視するかの違いに起因していると思われます。
CRMの日本での歴史は古く、1990年代にCRMという概念を現在のアクセンチュアが書籍を通じて提唱してから大企業を中心にスクラッチ開発からスタートし、その後はSFA(Sales Force Automation=「営業管理システム」)の名前で国内ベンダーもパッケージ(ライセンス)製品を打ち出していましたが、2000年4月にSalesforce社が日本法人を設立し国内参入したのを機にクラウドCRMが一気に広まり始めるのですが、大企業ではクラウドサービスの利用自体に慎重な姿勢が長く続き2010年代になって大企業、中小企業問わずにクラウドCRMが当たり前のようになり、同時に、国内外の様々なベンダーがクラウドCRMを提供し安価なサービスも登場するようになり、中小企業でもCRMが普及するようになりました。
1.2.CRMの役割
CRMの役割は結論から言うと「顧客情報を一元管理し企業の売上向上を目指すこと」と定義できます。
企業の売上向上には、顧客ニーズに応える製品やサービスを提供し続けることが重要で、顧客ニーズを知るには顧客情報や顧客とのコミュニケーション情報などを統合管理することが必要となるので、CRMの役割を一言で言うと「顧客情報管理」とも言えるでしょう。
クラウドCRMはサービスによって使い勝手や機能に細かい違いがあるので、自社のビジネスモデルや顧客との関係の取り方、商談の進め方などの業務フローなどに合わせて最適なサービスを選択することが重要になります。
1.3.CRMの主な機能と管理するデータ
CRMではマスターデータとトランザクションデータの2つのデータを扱います。機能とデータは表裏一体となるので、CRMが機能上取り扱うデータについて解説します。
データ分類 |
機能 |
管理データ |
マスターデータ |
取引先登録 取引先担当者登録 商品登録 |
取引先(会社)データ 取引先担当者データ 商品データ |
トランザクションデータ |
商談メモ登録 取引登録 見積登録・見積発行 請求登録・請求発行(※) メール配信(※) イベント登録管理(※) |
商談履歴データ 取引データ(見積等の元) 見積データ 請求データ メール配信ログデータ イベント参加者データ |
※クラウドCRMにより異なることが多い
ベースとなる機能と管理データは上記の通りで意外とシンプルですが、上記のデータを活用した分析機能も重要な機能となります。
何をどう分析するかは企業によって異なるので一概にここで解説することは難しいですが、BtoC企業とBtoB企業では、CRM分析の軸が異なるので、それぞれで良くある分析軸についてご紹介します。
【BtoC企業の主なCRM分析】
・RFM分析
・商品別顧客属性分析(年齢・性別・居住地など)
・居住地別購入商品分析
【BroB企業の主なCRM分析】
・取引先別売上推移(3年~5年ぐらいの取引年額の推移など)
・商品別取引先属性分析(商品による業種や規模などの傾向など)
・取引先別契約期間分析
2.ERPとは
2.1.ERPの概要
ERPとは「Enterprise(企業) Resource(資源) Planning(計画)」の略で企業の経営資源を一元管理し、企業全体を最適化を実現し、最適な経営意思決定を促すための経営手法で、それを実現するためのシステムとしてERPソフトやERPシステムやERPパッケージと呼ばれていますが、一般的にシステムの総称として「ERP」と呼ばれているのが通例です。
ERPの歴史はCRMよりも古く、世界的には1960年代から1970年代に登場しますが、日本国内では外資系ERPパッケージベンダーが1990年代に日本に参入したのが始まりとなります。その後、日本国内で業務改革ブームが始まり徐々にBPRの重要性が高まってきたこと、会計ビックバンと呼ばれる会計制度のグローバル化へ向けた改革が進んだこともERPの普及を後押ししました。と同時に国産ベンダーがERPを提供するようにもなり、国産への安心感から国産ERPが普及したのと、国産ベンダーが比較的安価なERPパッケージを提供しだしたことで大企業のみならず中堅企業にも普及が進んだ時代でもあります。
その後、2010年代に入るとクラウドERPが登場し、会計士や税理士などを巻き込んで中小企業への普及が一気に進みました。
2.2.ERPの役割
ERPの概要でもご紹介した通り、経営資源の一元管理や企業全体の最適化をするための経営手法が本来的な定義なのですが、システムという側面だけで見ると、実質的な役割は経営管理業務の遂行管理が主な役割になっています。
よって、経営管理部門が行っている、人事管理、労務管理といった業務や、経理業務、財務業務といった業務の遂行に資する機能が備わっており、最終的には財務諸表を出力するところがゴールとなっていることが多いです。
経営企画部門向けに経営分析機能が搭載されているERPも多いのですが、現在はBI(Business Inteligence)ツールと言われる経営ダッシュボードを簡単に作成できるツールが普及していたり、最近では、KPIマネジメントクラウドのような経営指標に特化した予実管理や前年比較といったのを簡単に見れるクラウドサービスとの連携などが進んでおり、ERPの経営分析機能に関しては、その役割を終えている傾向にあります。その理由は、多くの経営管理部は実績データを正確に処理することに主眼を置いているので、経営企画部門が主眼を置いている予実管理や経年推移といった分析データをERPで見る習慣が根付かなかったのが要因だと考えています。
2.3.ERPの主な機能
ERPの主な機能は経営管理部門の業務と連動して機能が設計されており、各モジュール間でのデータ一元管理に強みを持っています。一般的なERPの主要機能について一覧にまとめます。
該当部門 |
該当モジュール |
主な機能 |
総務部門 |
固定資産管理 |
固定資産取得 固定資産除却・廃棄 |
人事労務部門 |
人事管理 勤怠管理 給与計算 |
社員の入退社管理 社員台帳管理 社会保険等の管理 勤怠打刻 勤怠集計 給与計算 賞与計算 年末調整 |
経理財務部門 |
経理管理 財務管理 債権・債務管理 販売管理 |
伝票入力 仕訳自動計算 原価計算 月次決算 年次決算 財務諸表作成・出力 入出金管理 C/F計算書作成 銀行データ 売掛金計上・消込 買掛金計上・消込 その他債権債務管理 契約条件登録 請求計算 請求書発行 |
上記の通り、経営管理部門の業務に直結した機能が主な機能となっております。上記以外にも生産管理や在庫管理といった製造部門を中心としたモジュールをERPパッケージに含んでいるケースもあれば、その部分は別システムとして切り出して経営管理部門中心のERPと連携させるケースも多々あります。勤怠管理システムも同様にERPパッケージのモジュールではなく独自システムとして導入しERPと連携させるケースも多いです。
3.CRMとERPとの違い
CRM |
ERP |
|
対象部門 |
セールスやマーケ部門 |
管理部門 |
取り扱いデータ |
顧客データ中心 |
会計・人事データ中心 |
システムの役割 |
顧客分析やコミュニケーション |
業務処理・管理 |
上記の通り、CRMとERPは、まず対象としているユーザー部門が大きく異なります。CRM部門がマーケティング部門やセールス部門を対象としているのに対して、ERPは経営管理部門を対象にしています。
しかしながら、いくつか重複しているデータや機能が存在していることも事実です。
本章では、主にどの辺りに重複があり、主にどちらのシステムを正解データとしているかについて解説します。
3.1.取引先マスター
CRMにもERPにも共通してあるのが取引先マスターです。取引先マスターはDRMでは顧客管理のベースとなるマスターデータでもあり、ERPでも特に経理部門等が使用するモジュールのベースとなるマスターデータでもあります。従いまして基本的にはどちらのシステムでも保有しているデータではあるのですが、正解データとしてはERPの取引マスターを正としているケースが多いです。また、意外とデータ連携していないケースも多々あります。
理由としては、CRMでの取引先データはマーケティング部門やセールス部門が「相手先がどの企業か」が判別できれば良いので正確な会社名でないケースも多々あります。しかしERPの取引先データは請求書発行など正式な会社として発行する文書に使われるので正確な会社名でないと行けないからです。また、ERPでは取引先の銀行口座も取引先データには登録され、支払や入金といった管理もするので、より正確性が求められます。従って、取引先マスターはERPを正としつつも、CRMとは連動していないケースが多いのです。
3.2.販売管理
CRMで「販売管理」という名称が使われるケースは少なく「取引」や「商談」といった名称で使われますが、いずれにしもて受注までの管理をする役割を担っているので、ERPでいう販売管理モジュールと近しいデータがCRMにも存在します。
では、販売管理という側面でCRMとERPとで何が大きく違うかというと、CRMでは商談の進行に応じて見積を何度も出し直したり、最終的な受注金額が管理できれば良いので請求条件などを管理するケースが少ないのに対して、ERPは請求書発行が販売管理モジュールの目的ではあるので金額は受注金額さへ分かればよく、請求条件といった請求計算をするための元となる条件を細かく管理することに力点を置いています。
似たようなデータ・機能であっても、CRMの役割とERPの役割によって保有するデータ・機能に違いが出てくるのはそのためです。
3.3.契約管理
販売管理と似たようなモジュールになりますが、ERPによっては契約管理を独自モジュールとして持つケースがあります。多くのケースではモジュールごとカスタマイズするケースが多く標準モジュールで持つERPは少ないですが、契約条件が案件によって複雑に設定されるような商材や商習慣のビジネスであると販売管理モジュールで標準的に登録できないケースがあるのでカスタマイズすることがあります。例えば、小ロット多品種の日販品でボリュームディスカウントが入るが毎月発注数量が変わるような商習慣の場合、ERPの販売管理モジュールの標準機能では追い付かないことがあるので、そういった場合に契約管理モジュールを独自にカスタマイズ開発する、といったケースです。
ちなみに、契約管理をCRMでやることはほぼありません。
3.4.納品管理
納品管理ついては、CRMにもERPにもないケースがほとんどです。多くのケースでは、CRMやERPとは切り離して、プロジェクト管理ツールを用いて納品管理をしておき、納品完了時に請求を発行する際に人的にCRM上で商談を「納品完了」というステータスに移し、ERPで請求計算する、といった人的にシステム間のデータを人的に連動させる「疎結合」といった状態にさせています。
「受注」→「納品」→「請求」という一連のプロセスの中で「二重入力の負荷」があまり感じられないのが主な要因なのでしょう。
しかし、最近では、APIが発達しており、CRMで持っている案件情報をプロジェクト管理ツールに渡し、プロジェクト管理ツール内でプロジェクトの進捗管理と工数管理をしておき、そのデータをAPIでERPの原価計算モジュールに渡して原価計算し仕訳を自動生成するような仕組みも導入されつつあります。
H&Kも上場準備にあたって上記のようなシステム設計で財務の内部統制強化を図っています。この辺りは後の事例紹介で詳しくご紹介します。
3.5.請求管理
請求管理は今までERP側で行っているケースが多い傾向にありました。理由は単純で請求計算した請求金額はそのまま売掛金(=債権)として経理財務部門が管理するデータになるので、計算機能からERP側に持たせていたのと、CRMはあくまで受注までを管理するのが主流だったので、請求管理までを意識していなかった、というのが理由でしょう。
しかし、最近ではCRMから請求書を発行できる機能も出てきており、今まではERPで経理部門が請求書を発行していたのをビジネス部門側に業務を移管しているケースも見受けられます。
しかし、例えば帳票デザインの自由度であったり、ERPで一元管理してきた経緯などともあり、まだまだ請求管理の主流はERP側にあると言えるでしょう。
4.CRMとERPの連携メリット
上記の通り、CRMとERPは基本的な役割が違うのですが、データそのものは類似するデータをお互いに保有しているケースも多々あります。ということは、CRMとERPを連携させることで生まれるメリットもあります。その主なメリットについてご紹介しつつ、H&KのDX事例についてご紹介します。
4.1.部門間を超える連携をDX化できる
部門間を超える連携とは、具体的にはセールス部門と法務部門との連携、セールス部門と経理部門(請求担当)との連携が実現できます。
まず、セールス部門と法務部門との連携はAPIで実現できます。通常セールス部門で受注した(受注確度が相当高い)段階になると法務部門の担当者と連携し契約書レビューや締結作業を社内担当者同士で連携して実施するケースがほとんどで手間が発生します。契約書レビューは取引先のあることなのでAPIで自動化することは難しいですが、締結作業は法務部門へ紙の契約書を渡して押印してもらう、ような時代では既にありません。APIでCRMと電子締結サービスを連携させデジタル上で締結する時代になりました。
同様に、CRMで持っている案件情報をAPIでERPにつないでERP側で請求書を発行すれば発行ボタン1つクリックするだけで完了しますし、ERPで売掛金の入金消込をしたらAPIでCRM側に返し案件ステータスを「入金済」にしCRM側で入金期日を持っていれば期日を過ぎたら担当者に通知がいく設定にしておけば、毎月、月末の入金状況を経理財務の担当者がチェックし未入金一覧表をEXCELで作成して社内メールで確認依頼をするような作業は全く必要なくなります。
このように、今までは部門間を超える業務連携は「担当者同士」が「人」で繋いでいたことをAPI技術を活用することで簡単にDX化できるのです。
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4.2.DX化により財務的な内部統制が強化できる
上場準備中の企業や上場企業には、様々な内部統制が求められており、財務的な内部統制も求められます。簡単に言うと「不正リスク」と「間違いリスク」を最小限にする統制環境です。
CRMとERPを連携させることで上記の例のように「人」が介在する余地を最小限にすることが可能となるので、「不正リスク」も「間違いリスク」も人的要因で発生することはなくなります。DX化はデジタルデータを一元的に管理し分析するだけではなく、内部統制という側面でも有効なのです。
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5.まとめ
いかがだったでしょうか。今まであまり意識されていなかったCRMとERPとの連携について、その背景やCRMとERPの違いなどをご紹介しながら、連携メリットについて解説してきました。CRMとERPを連携させることで、多くのメリットがあることをご理解いただけたと思います。
CRMとERPの連携bは部門間連携の課題を解決する大きな手段となります。部門間連携が強化されれば組織全体のパフォーマンス向上につながります。
この記事をお読みいただいた皆様にCRMとERPの連携による組織全体のパフォーマンス向上へ向けて取り組みを検討されることを期待しています。
H&Kに相談してみたい、H&Kの事例を詳しく聞きたい、といった方は是非お問い合わせください。