「設備投資の費用を補助してくれる制度があると聞いたが、自社が対象になるのかわからない」。業務改善助成金について、こうしたご相談をよくいただきます。名前に「業務改善」と入っているため、一般的な業務改善の補助金と思われがちですが、実際にはもう少し特定の目的を持った制度です。この記事では、業務改善助成金がどういう制度で、誰が対象になり、どんな流れで申請するのかを整理します。なお、補助額や細かい要件は年度ごとに改定されるため、具体的な金額は厚生労働省の最新情報を必ず確認してください。
業務改善助成金とは、どういう制度か
業務改善助成金は、厚生労働省が所管する制度です。中小企業や小規模事業者が「事業場内の最低賃金を引き上げ」、あわせて「生産性向上につながる設備投資など」を行った場合に、その費用の一部が助成されます。
ここで押さえておきたいのは、単なる設備投資の補助ではないという点です。賃上げとセットになっているところに、この制度の特徴があります。最低賃金の引き上げという政策目的があり、それを実現する企業を後押しするために設備投資を支援する、という建て付けです。
そのため、賃上げを伴わない設備投資だけでは対象になりません。「従業員の賃金を上げる」と「そのための生産性向上投資をする」がセットで初めて申請できる制度だと理解してください。
何に使えるのか
助成の対象になる経費は、生産性向上に資する設備投資が中心です。具体例としては、次のようなものが挙げられます。
- 業務効率化のための機械装置やツールの導入
- POSレジや受発注システムなどの導入
- 在庫管理や顧客管理のためのソフトウェア
- 作業時間を短縮する設備の入れ替え
ポイントは「賃上げの原資を生む投資か」という観点です。設備を入れて生産性が上がり、その結果として賃上げを続けられる、というストーリーが描けるかどうかが問われます。単に欲しい備品を買うための制度ではない、という点は誤解されやすいので注意してください。
なお、対象経費の範囲やソフトウェア・クラウドサービスの扱いは年度の要綱で変わります。自社の投資が対象になるかは、申請前に必ず最新の公募要領で確認してください。
申請の大まかな流れ
申請は、思い立ってすぐ設備を買えばよいというものではありません。一般的には、次のような順序で進みます。
1. 交付申請(賃上げ計画と設備投資計画を提出する)
2. 交付決定(審査を経て、国から実施の承認を受ける)
3. 事業の実施(賃金引き上げと設備導入を行う)
4. 実績報告(実施した内容と支払いを証明する書類を提出する)
5. 助成金の支払い
注意したいのは、原則として「交付決定の前に発注・契約・支払いをしてはいけない」という点です。先に設備を買ってしまうと対象外になるケースがあります。この順序を守れずに対象外になる例は少なくありません。スケジュールは余裕を持って組んでください。
つまずきやすいポイント
申請のご相談を受ける中で、つまずく箇所はだいたい決まっています。
ひとつは、先ほど触れた「交付決定前の発注」です。良い設備が見つかると、つい先に契約したくなりますが、ここを焦ると助成の対象から外れます。
もうひとつは、賃金引き上げの「継続性」です。一時的に上げて後で戻す、という運用は制度の趣旨に反します。引き上げた賃金を維持できる事業計画になっているかが問われます。
そして、書類の整合性です。賃金台帳、見積書、契約書、振込記録などの証拠書類が一貫していないと、実績報告でつまずきます。最初から書類をそろえる前提で進めるのが安全です。
助成金は「目的」ではなく「手段」として使う
ここはコンサルティングの現場で感じることです。助成金が使えると知ると、「この助成金で何が買えるか」から考え始める企業が少なくありません。順序が逆になっています。
当社が支援する場面では、まず「どの業務課題を、どの数値で改善したいのか」を先に決めることをおすすめしています。課題と目標が定まってから、それを実現する設備投資を考え、その投資に助成金が使えるなら活用する、という順序です。助成金ありきで設備を選ぶと、自社の課題と噛み合わない投資になりがちです。
業務改善助成金は、賃上げと生産性向上を同時に進めたい企業にとって、よく設計された制度です。ただし制度に振り回されず、自社の業務改善の目標を主役に置くことが、結果として活用の成否を分けます。
